シダの群れ 公演情報 Bunkamura「シダの群れ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    「修羅の群れ」のパロディー?
    ドンパチ場面が嫌いなわりに、東映の仁侠映画は数多く見てきた。
    仁侠映画でありがちな設定が出てきて、いつもの岩松作品よりは普通っぽくてわかりやすいと思ったが、やはり、岩松さんらしさはあった。
    ラストは「え、これでおしまい?」とややあっけなさも感じた。
    風間杜夫はさすが名人芸というか、芝居を自分のものにしている。言い換えれば、風間で成り立っているようなところがあり、それだけに他の俳優には物足りなさを感じた。

    ネタバレBOX

    病床にいる組長の本妻の息子ツヨシ(小出恵介)と、愛人(伊藤蘭)の息子タカヒロ(江口洋介)を巡る跡目問題。愛人の息子は刑務所でのおツトメを果たしてシャバに戻ってくる。ムショに入る段階でタカヒロの跡目相続は決まっていたようなのだが、組長補佐の風間杜夫は、筋目を通して本妻の息子ツヨシに継がせるべきでは、と考えているようだ。ツヨシには本妻(江口のり子)との間に1人息子があり、さらにツヨシの愛人ヨーコ(黒川芽以)のお腹にも子どもがいる。まさに連鎖である。いかにも極妻シリーズに出てくるようなシチュエーションだ。岩松作品にしてはふつうの会話が多いように見えても、やくざファミリーの会話は微妙にズレていき、そのズレはやがて大きなキレツと悲劇を生むのだ。
    やくざ社会、とにかく下の者の上の者に対する気働きがものを言い、空気を読むことが要求されるが、不器用な若いモン森本(阿部サダヲ)はタカヒロを慕う自分の本心と、組の意向との板ばさみになって「空気の読み方」に苦悩し、爆発する。タカヒロがムショに入る前、将来を誓った女ヤスコ(舞台には登場せず)が行方不明になり、タカヒロは喫茶店でヤスコと旧知のヨーコと会っていたところを森本に見られて誤解される。
    冒頭、対立する組がなぜいきなり自動車に発砲してきたのか、ラストでお腹に子どもがいるヨーコまでがなぜ自決しなければならないのかよく理解できなかった。「ヨーコが実はヤスコと同一人物で、ヨーコのお腹の中の子が実はタカヒロの子であった」とかいう展開ならともかく(笑)。
    風間杜夫は、前半のんびりしていて、やくざというより中間管理職のおじさんみたいだ。新聞の劇評でも、本作がサラリーマン社会の縮図のようだと書いている演劇記者がいたが、日本の企業と政治の世界はやくざ社会と酷似しているとはよく言われているから無理もない(笑)。
    風間の懐の深さ、演技の「間」のすばらしさは抜群である。伊藤蘭は江口洋介の母親には見えなかったので、最初のうち江口洋介は舎弟の一人かと思い、関係がわからなかった(笑)。もともと私は女優としての伊藤蘭をあまり評価してないが、今回も極妻役ということでドスをきかせたつもりの演技が岩下志麻の下手なコピーにしか見えず、感心できなかった。風間を誘惑して2人でコーヒールンバを踊る場面はご愛嬌だが、まるで彼女が準レギュラーだったドリフの全員集合時代の寸劇みたいだった。
    阿部サダヲ、江口のり子の演技にはよくも悪くも小劇場の匂いが染み付いている感じ。
    江口のり子は人気深夜ドラマ「時効警察」で岩松の部下役だったし、NHKの「風のハルカ」では、岩松、黒川、近藤公園は舅、嫁、夫というファミリーだったせいか、配役も岩松色が濃い。
    好んでチョイ役に出演するという岩松了の俳優としての存在感も私は好きだ。俳優として出演しながら、共演者を自分の芝居に上手にさらってくるようだ(笑)。
    黒川は女子高生役からずいぶん大人の女に成長した。
    小出の関西弁のアクセントがまったくなっていない。変な関西弁ならしゃべらせないほうがよい。
    この芝居、目新しさはないし、役者たちが演じる人物にカッコよさはないのだが、時折芝居の隙間に流れるやるせない空気がジーンと響く。
    それはまちがいなく岩松了がつくりだしたものであり、彼の芝居に流れる厭世観のような気がする。また、数年前、自分が花火を見上げながら自殺を覚悟した夜に、忍び寄ってきた厭世的な匂いの夜風にも似ている。私が岩松の芝居にひかれているのはそういう言葉でうまく表現できない点だと思う。
    何度かのカーテンコールのあと、客席に明かりがついてもアンコールを促す手拍子が鳴り止まなかったが、なんだかシラケて私は劇場をすぐに出てしまった。正直、そんなにいつまでもカーテンコールを求めるほどの芝居には感じられなかったし、求めることで「通」ぶっているような昨今のシアターコクーンの客席の雰囲気に私はどうにもなじめなくなっている。
    嘘臭いスノッブさというか・・・これなら、小劇場の会場のほうが数段心地よいと思う。

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    2010/10/01 13:31

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