実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/11/22 (金) 14:00
座席1階
このユニットの結成の経緯から、今作は時計屋の主人を演じる津嘉山正種へのあて書きかとも想像していた。しかし、この戯曲は商店街にある古い時計屋を舞台にした家族の群像劇だった。これが抜群の展開で、会場はすすり泣きの声があちこちに。客席のハートを見事につかんでいた。
津嘉山がこだわる昭和の時代。携帯電話もポケットベルもない。時計の世界でいくと、腕時計などにクオーツが席巻し始め、懐中時計や柱時計などが脇へ追いやられそうになっている状況だ。時計と言えば当時は形見の品で、両親などから譲り受けたものを大切に使っている人が多かった。この時計店は、そんな思い入れのこもった時計を修理する店なのだが、後を継がないで信金に勤めている息子が「こんな時代だからもう閉店した方がいい」と父親に進言し、冷戦状態になっている。
そんなところに「弟子入りしたい」と中年女性が訪れた。聞けば、戦地に出向いた祖父が身に着けていた懐中時計を何とか直したいとのことだった。この時計が銃弾から身を守る盾になったのだという。
浅草にある劇場らしく、登場人物はちゃきちゃきの江戸っ子という感じで親子(母と娘)の口げんかも激烈だ。戦中派の時計屋夫婦と、離婚して実家に出戻りの娘、長男夫婦と大学生の子という家族構成。時計屋の主人だけの物語でなく、個性豊かな登場人物それぞれに重要な役回りがあり、この戯曲の面白さを形作っている。
後段は予想外の展開で虚をつかれるのだが、そこが感涙を絞る遠因にもなっている。今作はホンを書いたふたくちつよしの勝利といったところか。平成生まれだと少し背景の情報収集が必要かもしれないが、若い世代が見ても面白いはずだ。昭和を生きてきた世代にはばっちりツボにはまった名作だと思う。