実演鑑賞
満足度★★★★★
『無頼の女房』を観て、やっぱり青山勝氏の演出力はずば抜けているなと再認識。かんのひとみさんだけを頼りに何となくチケットを購入。これが万馬券。荒み切った心の砂漠を潤してくれる恵みの雨。金を払ってでも観るべき芝居とはこれだ。騙されたと思って観に行って頂きたい。帰りに物販で散財したくなる筈。故・中島淳彦氏にRespect。このクラスの脚本を出されたら文句のつけようがない。ただただ感心。凄い作品だ。
主演の演歌歌手を目指す少女は初舞台!?の宏菜(ひろな)さん。随分歌上手い女優だなあと思っていたが本業は弾き語りのシンガーソングライター。ちょっと度肝を抜かれた。若き日の新垣里沙や高畑充希、蒼井優系の清純派の田舎娘だが歌い始めると観客の心を鷲掴み。よくこんな娘を見付けてきたもんだ。
そのマネージャーで義理の兄でもある佐藤銀平氏は佐藤B作氏の息子!もう見事と言うしかない絶品の話術。圧倒された。つかこうへい節の角番の男を舞台に鮮烈に刻み付ける。
時代は平成元年(1989年)、東京の下町にある居酒屋「歌声」。元音楽プロデューサーだった旦那(佐藤達氏)と店を切り盛りする女将(かんのひとみさん)のもとに兄妹(佐藤銀平氏&宏菜さん)がやって来る。「天才的な歌声を持つ妹をプロの演歌歌手にする為、裸一貫大阪から上京して来た。ついてはしばらくここで働かせてくれ」と。そこに元教師(藤崎卓也氏)率いる商店街のアマチュア・コーラス・グループが稽古にやって来る。昼間は店を稽古場として提供していたのだ。頼まれた妹は彼等に混じり歌声を響かせる。フォーク・ソングにかなり小節(こぶし)を回して・・・。
各役者の役に仕込んだ細かなキャラ設定が抜群に味になる。
佐藤達氏のちょっとゲイっぽい仕草とか巧妙。
芸能プロダクション社長、板垣雄亮(ゆうすけ)氏は何かとボブルヘッド人形のように頭を左右に揺らす癖。
消えた演歌の天才作曲家、ジョージ相原役の宮地大介氏。これがへべれけの志村喬や由利徹のようでヨロヨロ歩くコミカルな動作が場内を爆笑に叩き込む。お見事!
藤崎卓也氏が身にまとう笑いのセンスは自分の大好物。この斉木しげる系の笑いを求めていた。
気田睦(けたむつみ)氏が咥えているのは禁煙パイポだろうか?水道橋博士を思わせる表情。
菅沼岳氏はBEGIN寄せ。
夫の佐藤銀平氏を追って上京して来た妻の山像(やまがた)かおりさんがまた最高。きっちり物語を構えてみせる。
酔ったかんのひとみさんが忘れられない見せ場を作る。
美空ひばりの曲が効果的に使われる。ひばりが亡くなったのはこの年の6月24日。美空ひばりの『みだれ髪』は最早文学の域にまで達している傑作だと思う。
是非観に行って頂きたい。そして宏菜さんのCDを買って欲しい。