ゆうせいむしむし 公演情報 劇団芝居屋かいとうらんま「ゆうせいむしむし」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め といっても東京公演の楽日に観劇。
    三島由紀夫の或る小説をモチーフにした現代劇。同時に物語の設定から反戦劇といった印象も受ける。タイトル「ゆうせいむしむし」は、四字熟語「遊生夢死」の否定のよう。説明にあるように、戦争で死ななかった男が 意味ある「生」のために無謀な「死」へ向かう。

    物語の始まりを戦後間もなくにしているところが妙。これによって生きらえてしまった復員兵が、これからどう生きていくのか、いや何もせず、ぼんやりと一生を過ごすのか。ここから三島作品をモチーフにした話が展開していく。チラシの表に「死ねなかったワタシの命 どなたか 買ってくれませんか」と。この突飛で物騒な言葉、日本人には それほど耳馴染みがないわけでもない。やくざ映画や浪花節など、どこかで聞いたことがある。勿論 物語に関係しているのだが、自暴自棄になっているのではなく、生きる価値を見出そうと もがいている<思い>のようだ。

    小劇場の特長を生かした演出が巧い。少しネタバレするが、キャスター付きの何枚かの障子戸を回転させながら、情景と状況を描き出す。瞬時に転換するようで、実に小気味よい。
    (上演時間1時間20分) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は先にも記したが、6枚の障子パネルのみ。そこに異なった絵柄を張り付け 情景を観せる。素早く動かし芝居の流れを途切れさせない工夫が好い。
    舞台衣裳は、軍服や着物といった戦後を思わせる洋装・和装が独特の世界観を作り出し、また輸血シーンの小道具は滑稽かつ怖いといった不思議感覚にさせる。

    冒頭、敗戦を知らせる玉音放送を聞くシーンから始まる。お国のために戦死することなく復員してしまった男 ヤスオの無念さ。自殺(切腹)しようとするが、踏ん切りがつかない。その様子を見ていた男 十蔵に命を買われる。十蔵は「命販売いたします」の看板を掲げた商売をしている。さて、モチーフにした小説は「命売ります」(1968年連載)で、自殺に失敗した主人公が「命を売る」ビジネスを始め、奇々怪々な依頼に応じる中で「命」と向き合う様子を描いたもの。

    生き残った復員兵が、今までの価値観と180度違った世の中で どう生きていくか。一度死んだ命、命を買われ それを売るという逆の発想の面白さ。一度死んだ命、色々な柵から解き放たれ 重荷がなくなった分、自由な思考と行動が…そこに戦後日本の姿(社会)をみる。それにしてもヤクザの妻や愛人の奇妙な愛憎、毒薬を作る女や輸血しないと死ぬ女など、一見バラバラと思える場面がどう関係し収斂していくのか興味を惹く。

    戦後から高度成長期への過渡期、その(個人)意識の変化を描いているが、この時代設定が妙。そして自分(ヤスオ)は何者なのかということが段々と明らかになり、戦死した戦友たちの想(重)いを背負って生きていることを知る。いや生か(輸血)されているといった悲哀が…。妄想・幻影といった奇妙なエピソード紡がれていくが、それはヤスオの心の闇(忘れたor忘れたい記憶)であり光(今後の生き方)を意味しているよう。そこに戦中戦後を生き抜いた人々のリアルな姿が立ち上がる。物語は、戦後の社会情勢や個人意識を通して、現代社会を生きる人々(我々)に繋がっている と言えよう。まさしくタイトルに準えた人生観を示唆している。
    次回公演も楽しみにしております。

    0

    2024/10/06 15:47

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大