実演鑑賞
満足度★★★★
とても面白かったです。
人間に不適格者・適格者の区別はないと思いつつも、AIによる人の選別に踏み込んだ今の世相を反映した設定。
そうして選別された不適格者が生き残り、適格者がパンデミックで死に絶えてしまうという逆転の結末が皮肉でもあり、見事でした。
生き残った人々らがこれからどうやって世の中を作るのか?気になる終わり方もまた良かったです。
日本ではここ数年、「勝手に決める」政治が幅を利かせ、世の中は急速に悪くなってないでしょうか。
「不適格者」を許さない社会、もしくは「選ばれた者」だけがルールである社会がどんなに恐ろしいものであるかを、この舞台は暗示しています。
「不適格者は断捨離」というルールが支配している社会で、アパートの気心の知れた住人が自死する話。一家の主である男性が不適格者と判定され、苦悩した結果、不適格者で匿われている幼い娘さんを治安部隊に通報し、母親の努力もむなしく死んでしまうという筋立てもありました。母の叫びが、母娘の絆は不変であることを示し、涙を誘いました。
「見えない椅子」という何も見ようとしないただ椅子に座り続ける人々を舞台の演題に設定したのも面白い発想でした。
椅子に座り続ける人々は、冷酷無慈悲な様相も呈しますが、そもそも不適格者は断捨離というルールで社会を締め付けている社会体制(AI)が原因です。舞台ではこのルールを覆そうと訴える人や抵抗する人もいますが、見ている方からすると儚い抵抗のような感じでした。しかしながら、彼らが命を張って訴えたことで自分たちと変わらないふつうの人がいることを実感することができました。
ラストの犠牲になられた方が大家の周りに集まり、静かに迎えに来るシーンがとても美しかったです。名前のない国民の方々の演出も本当に素晴らしく、あっという間の1時間50分でした。次の公演も期待しています。