実演鑑賞
満足度★★★★
第36回池袋演劇祭参加作品、面白い。
こんなにも優しい人々ばかりがいる街ならば、住んでみたい。そんな街を背景にして、心が傷つき病んだ人に寄り添った三編オムニバス風の物語で、敢えて収斂させていないようだ。かと言って三編がそれぞれ独立して描かれているわけではなく、しっかりストレートプレイとして展開する。心が傷ついた原因・理由を「仕事」「恋愛」「生死」といった 題材を取り上げ一般化させているところが妙。
終演後、作 演出の佐伯さやか女史と話した時、少し ばらけた と言ったが、帰りがけに考えを改めた。説明を読んで、「つばさの 何でも屋さん」をキーワードに物語が収斂していくとの先入観を持っていた。しかし、人の悩みは人それぞれで、一律に取り扱うことが難しい。舞台という虚構の中でドラマを紡ぐことは出来るだろう。しかし多様な悩みに どう寄り添い見守るのか その点を重視したような描き。物語を印象的に観せる舞台技術ー照明はあくまで自然光、音楽は優しい音色の曲が流れる。敢えて技巧を駆使しない、逆に自然な感じが情景を引き立てており巧い。
劇団えのぐ は2人の劇作家(もう1人は松下勇サン)を擁し、違う特色(味わい)の公演をしている。今回は佐伯女史が担当しているが、彼女らしい優しく繊細なタッチで描いている。池袋演劇祭は、本公演で5回目の参加だという。参加作品はすべて…そんな実力劇団が放つ珠玉作。コロナ禍で不寛容・無関心といった風潮が感じられるが、公演は滋味に溢れており 心温まる。ぜひ劇場で。
(上演時間1時間50分 休憩なし)