実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め。と言っても関東では 本公演1回のみ。午後仕事を休んで観にいった甲斐 価値はあった。
典型的な反戦劇で、太平洋戦争直前とその9年後を劇中劇仕立てにして描いた重厚作。しかし単に回顧・教訓といった描き方ではなく、今を いや今後をも問うような問題作である。
少しネタバレするが、1941年7~8月の模擬内閣演習(総力戦研究所)の場面から始まる。その時に何人かの役者が客席に背中を向けたまま議論する。激論を交わした結論に対する思いが 物語のテーマ。勿論 タイトル「帰還不能点」を意味しているが、個々人のその時の立場や生活、もしくは家族・親戚といった多くの者への影響を考えた時、果たして自分ならどうするかを考えてしまう。過去を振り返って、こうすれば良かったと嘆き悔いてみても始まらない。
物語では、不作為による後悔が痛々しい。しかし、好ましくない情勢や分析を正直に上層部へ進言できるか、それは翻って 今現在 組織の中で(不正は別にして)確実に実行出来るかどうか。公演は太平洋戦争という国家存亡に係る設定だからこそ真に迫る。先に記した 後ろ向きは、正直な結論を上層部へ進言せず、戦争を回避すべき行為をしなかった姿であろう。
また回顧した時期が1950年、その設定が妙。太平洋戦争で焦土と化してから5年、今 朝鮮戦争によって好景気に沸いている。隣国の戦争によって潤い喜ぶ皮肉。
劇団チョコレート ケーキらしい陰影ある照明、そして重低音の音楽が 濃密で緊張した場面を引き立てる。
第29回読売演劇大賞優秀作品
(上演時間2時間10分 休憩なし) 追記予定