地の塩、海の根 公演情報 燐光群「地の塩、海の根」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    混迷する世界、その時代に生きる者にとって演劇の<力>とは…。
    フライヤーには「ポーランド作家ユゼフ・ヴィトリンによる現ウクライナ地域の民衆の苦悩を描いた反戦小説」とあり、2022年6月に関西の演劇人と坂手洋二氏が この小説をもとにした「反戦リーディング」を上演したとある。タイトルからも分かるように小説「地の塩(未完)」と「海の根」という物語(思い)が交錯するように描かれており、その内容は民族・歴史・文化・言語など多岐にわたり、色々な課題・問題提起をしている。

    さて、この作品が燐光群(作・演出 坂手洋二氏)で上演されるから興味を惹くのであって、日常的に この国・地域に関心を持っている日本人がどれほどいるだろうか。地政学的にも すぐ反応できる人はそれほど多くいないのでは(⇦誤解か?)。今回観劇したのは、以前観た「ストレイト・ライン・クレイジー」が少し残念な思いをしたこともあり、このまま燐光群公演を観なくなったら という思いが正直なところ。
    (上演時間2時間30分 途中休憩なし) 

    ネタバレBOX

    素舞台。ただ奥が高くなっており、カーブを描くように低くなり また客席側が高くなる。一見すると八百屋舞台のようだ。基本 リーディングだが、役者が動き回り少なからず情景と状況を表す。
    客席近くの上手 下手に対峙しての会話は圧巻。


    物語は、某国立大学の講堂からウクライナ、ロシア、クリミアへ時間や場所が次々に変化・変遷していく。言えることは<今>を描いているーその意味では現代叙事詩。その観せ方はドキュメンタリーフィクションといった臨場感あるもの。小説「地の塩」の章立を順々に展開するようだが、原作は未完(10章迄)である。そして ロシア語の翻訳はあるがウクライナ語の翻訳はない。そこで リーディングを行うために役者を集める。

    リーディング作業と「地の塩」をウクライナ語に翻訳しようとする作家(家族)の話が交錯する。ロシア語を拒否し、ウクライナ語に未来を託す家族、しかしロシアに止められている息子はロシア語などの教育を強いられる。さらに小説の世界へ、そこでは踏切警手が オーストリア帝国の兵士として徴兵されロシアとの戦争へ…。
    ロシアにいた息子とウクライナにいる父の邂逅、父は「地の塩」をウクライナ語へ翻訳し、息子は その思いを綴った「海の根」、その地に対する脈々たる歴史と敬愛が書き込まれているよう。

    公演の面白いところは、ウクライナ、ロシアといった一方的な観点ではなく、まさにジャーナリステックのような視点で描いたといった印象。他方 難しいところは、現在進行している戦争を扱っているところ。自分の考えスタンスが確りしていないと、単に同調して見誤る可能性があるということ。その意味では おそろしく手強い公演だ。

    世界各国が政治・経済などあらゆる分野で関係していることから、対岸の火事といって傍観していても物価高など火の粉が降りかかってくる。正当なメッセージが込められた倫理観という醒めた見方、遠い国の出来事(戦争)といった他人事ではなく、自分たちとの関わりという視点で観ると興味深いかも。勿論、公演の主張は明確で 燐光群らしい反骨そして硬派なもの。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2024/06/24 12:28

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