雨とベンツと国道と私 公演情報 モダンスイマーズ「雨とベンツと国道と私」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    モダンスイマーズ25周年作品。コロナでしばらく劇団作品は見ていなかったが(ここ五年の間に二作だという)「現代新劇」とでも名付けたくなる作風は健在である。
    「デンキ島」はあまり素材になってこなかった沿岸離島の青春期から成人期の若者を描いて新鮮だったし、バブル崩壊後の若者を中心に地方の家族を舞台にした庶民劇「まほろば」は、現代新劇の路線でよかった。最近は、劇団外の大手興行会社からの注文で得意とは見えないファンタジー系もある。どれもそつなくこなしているうちに、いまや女優との噂がスポーツ新聞の記事になる中堅の地位を固めている。周囲に同じような作風の劇作家がいそうで、いない。そこが重宝される由縁だ。無理をしないで、期待に応えている。
    今回の舞台は、地方(群馬)で撮影される地元の自主映画の撮影現場である。パワハラで仕事がなくなって、やっと地方の自主映画を名前を変えて監督することになった監督(小椋毅)が慣れないニコヤカ・ムードで仕事を進めている。
    自主映画は、地元出身のそろそろ30歳代も終わりかけの元女優(小林さやか)が良人を亡くし、その思い出を映画にしたい、と見つけてきた監督以下の映画の制作陣で撮影が進んでいる。撮影現場でのお手伝いにと、かつて東京で女優志願時代の同年代の友人(山中志歩)を呼ぶ。舞台はグレイの単色のノーセットで、物語はナレーションも芝居と並行しながらこの部外者の視点で語られていく。テンポよく次々に過去・現在のシーンが展開する。
    表向きのテーマは映画製作の場でのパワハラになっている。
    撮影現場のトラブルはよくある話のレベルだが、東京でだらだらと生きてきた女優志願時代の友人が現場に入ってきて、ドラマは面白く動き出す。友人は監督がかつて一緒の撮影現場で出会ったパワハラ監督だと見破る。監督が乗っている古いベンツに見覚えがあったのだ。この友人の沈滞の20年そのもののような(名前も五味栞、愛称ゴミチャンである。つまらないようだがこういうところ上手いのである)視点も面白いが、それにもまして、外れていることに本人が気づかずに集団に平然とついていく現代人の多くの滑稽さを演技でも体現しているゴミを演じた山中志歩はこの公演随一の殊勲者だろう。パワハラの話はそれなりに出来てはいるが、話よりも、作者はそれを担う人物たち、パワハラを捨てきれない監督やカメラマン、地方の市民ミュージカル出演を誇りに俳優気取りの地方人(古川憲太郎)成り行き任せの若い助監督、などなどの人々を巧みに描いている。沈滞の20年はナニも経済や政治の沈滞だけでなく誰もが安易に手にした無気力無責任で生きられる生活が生んだのではないか、と言っている。ラストは映画の撮影で、相手役の若い男優が雨の中の空漠とした国道を走り出すところで終わっている。ここでダメ押しの台詞をつけていないところにもこの作者の年輪を感じる。
    この劇団はいつも男性の俳優しかいなかったが、25年の間にほとんど顔ぶれも変わっていない。そういう人付き合いの濃いところが作風にも出てきたように思う。今回は小品だが、いつも面白く見せてしまう劇作家というのは数少ない。1時間50分。自由席3千円で満席。




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    2024/06/19 21:28

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