実演鑑賞
満足度★★
キャストを見ると、燐光群と花組芝居の混成チームというちょっと意外な劇団の組合わせである。劇場の席ビラもないので、知り合いで作ったのか、その辺の小劇場独特の座組はよくわからない。チラシ宣伝ビラを見ても、なんの話しか解らなかったが、始まってみるとベテラン起用の意味はよくわかった。
話は、第二次大戦前夜にドイツとイギリスを平和的につなごうとした英独米のグループがいて、当時の国王も噛んでいる。その国王はアメリカ人のシンプソン夫人との王冠を捨てた恋で知られた事件の当事者で、結局英独協調はものにならず二次大戦につながっていく。舞台はその歴史的経緯を国王と、シンプソン夫人を軸に当時の首相、後継の国王、さらにはヒットラーも出てきて、近代史のおさらいみたいになっていく。
この実話は既に虚実取り混ぜ膨大な数の本も出ているが、舞台はとにかく複雑な現代史の一コマをまとめているだけで、格別の新説もない。個人的に気に入っている同じ背景を扱ったカズオ・イシグロの「日の名残り」のように一つの事件とか場所に焦点を合わせてドラマにしているわけでもないので、作品意図がつかめず、焦れてくる。時に思わせぶりなところもあるが、そこだけの展開である。これは平田オリザ派の悪い癖で、仲間だけは目配せして解っているつもりでも観客には伝わらない。せめて国王やシンプソン夫人、閣僚などはそれなりの重みが必要とかり出されたのが、両劇団のベテラン起用だと納得した。それにしても、男性役はヒトラーを除き、全員白のタキシードだが、対するシンプソン夫人は、ガラも芝居も衣装も、もっとキャラが強く出ていなければこの話は面白くもなんともない。ただの特権階級情話である。タイトル通り、雲を掴むような芝居だった。1時間37分。