正太くんの青空 公演情報 Wit「正太くんの青空」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    秀作ではあるけれど
    Witは高橋いさを(劇団ショーマ)の作品を上演していこうという目的で結成されたプロデュース・ユニットで、高橋氏の人気が凄いためか初日終わった時点でチケット完売状態。
    パンフにWitのメンバーの1人であるIKKAN(オフィス怪人★社代表)が「この準備期間で、書き下ろし作品なんて間に合うかどうか難しいですよ」と高橋氏が言ったことを明かし、しかし稽古初日の1週間前には脚本が出来上がっていたから、「感動です。天才です!」と絶賛している。実際に観てみると、なるほどその証言を裏付けるような作品だった。確かによく纏め上げられた秀作ではあると思うが、魚の小骨が喉に引っ掛かったような印象が残り、準備期間が短かったのではないのか?手放しで満点はつけがたいというのが正直な感想だ。

    ネタバレBOX

    パンフに高橋氏が映画「十二人の怒れる男」のファンで実際の裁判もよく傍聴するので、「裁判劇もどきが作れてうれしいです(原文のママ)」と書いてあるのを開演前に読み、大いに期待した。
    いじめを受けたとされる児童の正太の母(永澤菜教)と、いじめたとされる側の2人の男子児童の両親、綱取夫妻(康喜弼/虹組キララ)と藤枝夫妻(IKKAN/四宮由佳)が学校に呼ばれる。正太の母は離婚して弁当屋で働いており、綱取は産婦人科医、藤枝はタレントでNHKの教育番組にも出演しているという設定。綱取の妻や藤枝の夫は、正太の母の境遇を蔑視するようなそぶりを見せる。
    学年主任の杉山(杉田吉平)立会いのもと、いじめが疑われる状況説明が担任教師・内堀(ウチクリ内倉)によって行われ、綱取、藤枝側は否定する。気弱で頼りない内堀に代わり、生活指導教諭の井上(おーみまみ)が弁護士並みの弁舌をふるって正太を弁護する。井上は子どものころいじめを受けた経験がある。いじめを裏付ける現場を目撃したと言う用務員の福田(ロッキー)が呼ばれ、証言を行うが、綱取・藤枝側は認めようとせず、両者の主張が平行線をたどり、綱取は正太の母に金を渡して納得させようとまでする。正太の母が教育委員会に訴えると言うと、綱取の妻は教育委員たちは自分の息がかかっているので、正太の母の言い分など信じてもらえないとせせら笑う。絶望した正太の母はカッターナイフを持って綱取と藤枝の子どもが待機している校長室にたてこもる。校長は入院中で、「開かれた学校」を目指して校長室の鍵を廃棄したため、内鍵はかけられるが、外からは開けられないという状況の中、綱取・藤枝家の家庭の事情が明らかになっていく。綱取家は夫の浮気により離婚話が進んでおり、息子の中学入学と同時に離婚することが決まっていた。藤枝の妻は臨月だが、後妻で生さぬ仲の息子に遠慮があり、甘やかしている。監禁中、正太の母が2人の児童に話をして、2人がいじめを認めて謝り、正太の母も出てきてメデタシ、メデタシ。
    正太の母がたてこもった時点から設定の都合のよさだけが目につき、失望してしまった。校長不在で内鍵しか掛からない校長室、正太の母が隔離された状況で夫妻が本音を明かす。藤枝の妻の気分が悪くなっても、綱取の夫が産婦人科医なので対応できる。
    「十二人の怒れる男」が秀逸なのは、密室状態の中、誰一人席をはずさないで討論が行われ、それぞれの個人的事情や人間性が明らかになっていくからで、この作品にはそういう緊迫感がない。
    校長室が空というが、こういう場合は教頭が代行するので不自然だ。しかもこの校長はモンスターペアレンツの問題で心労から入院しているという。現在の学校制度は校長不在を認めず、長期入院などの場合は教育委員会からしかるべき人物を派遣している。
    また、この会議にはオブザーバーとして同じような状況を経験したことがある近くの学校教諭が同席している。この役は日替わりゲストで、自分が観た日は矢吹卓也だったが、石川英郎、高橋いさをも配役されている。負担が少ない役ということで設けられたのだろうが、「飴食べます?」と「勉強になりました」いう台詞は言うものの、ほとんど必要性を感じない。「決して発言をしないように」と杉山が最初に釘を刺すが、だったら同席の必要があるのか。それでも途中で発言して会議の方向が変わっていけば面白いと思うのだが。用務員の福田のロッキーのわざとらしい表情も気になったが、ボケの行動が作為的で「お呼びでない?こりゃまた失礼しました!」という植木等のギャグに至っては客席がシーンとなった。学童保育士の佐藤(高円寺モテコ)をヘルパーみたいに遣い、児童たちの世話をさせるが「仕事ですから」と常にふてくされた表情をする。児童の前では愛想のよいお姉さんを演じているらしく(聞こえてくる声で表現)、そのギャップがこの役のミソらしいが、注目する客が少ないのか笑いが起きなかった。佐藤のことを藤枝の夫が「更年期障害だよ」と言う場面があったが、佐藤は若いし、それはないだろ(笑)と思った。
    印象に残った俳優を挙げると・・・。声優として活躍する永澤は、声にけなげさと生活感がにじみ出ていてよかった。正太が別れた夫に似てお人好しだと話す場面に胸打たれた。虹組は厚化粧で高慢ちきな教育ママを好演。和服姿も美しいが、着付けで帯のたれが短すぎて隠れ、帯締めの位置も高すぎるのが気になった。IKKANはいかにもいそうな勘違いしたタレントという感じが出ていた。杉山役の杉田も自然な演技で場を引き締める。ただ、最後の杉山と井上の「バカヤロー!」と叫ぶシーンは、ベタすぎて個人的には背中がモゾモゾした。
    冒頭、諸注意を3人の母親役女優が人形劇で演じ、この人形が児童役という設定のようだが、最後に校長室の窓に青空をバックに3人の人形が踊る演出がよかった。

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    2010/08/08 08:05

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