実演鑑賞
満足度★★
よく狙いの解らない短編上演である。テーマは「東京の恋」で、岸田国士、別役実、現在の深井邦彦、と三人の戯曲(深井は新作)から過去東京の百年の三時代を背景に短編集としている。恋と言うが、戯曲の内容は、男女の夫婦への思いが素材になっている。岸田本は結婚以前のお見合いの若い男女、別役本は中年の再婚のお見合い、深井本は妻が亡くなった良人の慕情と、恋と言うより結婚に関する「男と女」の意識のすれ違いがドラマになっている。岸田本(「頼もしき求婚」)は昔どこかで見た記憶があるが、今となっては、こういうお見合いは、若い男女や仲人役も含めて、観客にも俳優にもリアリティのきっかけがなく、空転している。別役本(「その人ではありません」)恋の機微を突いているわけでも、男女の関係の面白さが出ているわけでもない。本の出来もあまり良いとは言えず、繰り返しが多くて退屈する。深井本は新作だが、亡くなった妻に再会したい、という主筋は前作に引きずられてか、古めかしくラストに置かれた現代の挿話が、百年の鏡にもなっていない。東京の恋と言いながら焦点が見えてこない。
俳優はよく小劇場でお目にかかるベテランもいるのに、言葉への神経が行き届いていない。ことに、岸田、別役と言えば戯曲の台詞としては(内容については別にしても)、定評がある。観客も舞台の日本語としてはいままでも聞いてきている。この台詞表現の無神経な単調さ、鼻濁音一つ、友達言葉や敬語も出来ていない東京言葉の(ほとんど)無視はどうかと思う。過去を引きずらないというなら、先週見た若い加藤拓也・演出(「カラカラ天気と五人の紳士」)のように、原戯曲の台詞のまま現代の言葉にする努力をしなければ、過去の戯曲を再演する意味がない。
先年亡くなった劇団主宰の中島敦彦の劇風をつなぐなら、人情の機微を観察して、表現していくことが、この劇団の劇界での位置取りだと思う。中島敦彦の作品を始め、前世紀末から現在にかけても、幾つかの埋没させてしまうには惜しい戯曲が発表されている。松原俊春、宮沢章夫 如月小春 山田太一(戯曲もある)などなど。そういう作品の小劇場での再演も新しい役割になると思う。