実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/04/11 (木) 14:00
座席1階
テーマは先の戦争の戦犯を裁いた東京裁判。国際連盟を脱退した時の外相松岡洋右の弁護団に参加している夫婦が主人公だ。ミュージカル仕立ての二幕もの。
物語の本筋とは関係ないが、ヤミ米を取り締まる日本の経済警察が乗客のリュックに小刀を突き立て、コメが流れ出たら検挙という取り締まりでリュックの中に入れて背負っていた赤ちゃんを刺し殺してしまったのに、「恨むならヤミ米を買っている奴を恨め」と捨てぜりふを残して立ち去った、という小話がとても印象に残った。戦後の混乱期ということもあるが、警察の上から目線、庶民いじめ、責任逃れの「おいこら警察」は今も変わっていない。声高に反戦を唱える部分はこの戯曲にないが、こうした小話一つに井上ひさしの思いが込められていると思う。
あまり仲が良くない弁護士夫婦だが、「この裁判は、どうしてこの国が進路を誤ったのかを記録する大切な裁判」と力説する妻に引っ張られる形で弁護団に加わっていた。だが、松岡洋右の結核が悪化して、弁護団の補佐役は解散の憂き目に。この弁護士事務所を中心に新橋でのヤクザの抗争など多彩なエピソードが盛り込まれる。
桟敷童子の板垣桃子がこまつ座に初参加。桟敷童子のイメージとはまったく違った感じなので、見慣れているファンとしては若干の違和感があった。彼女の良さが生かされていないというのは言いすぎか。半面、夫婦の娘役を務めた瀬戸さおりはせりふも明瞭で歌唱力も高く、とてもいいと思った。主役のラサール石井はさすがの老練さだが、ちょっと疲れている印象も。相方の秋山菜津子は切れもよく、ラサール石井を飲み込んでしまったようだ。
個人的趣味では、ミュージカル仕立てとするより純粋なストレートプレイで見たかった気がする。