実演鑑賞
満足度★★★★
別役実作品に新しい演出が加わった。弱冠三十歳余の加藤拓也。若手の中でもどんな作品でも「いま」風に作ってみせる才人である。まずは、電柱一本が定番のセットが変わった。
地下鉄のホームが線路側から組まれていて、正面には改札口への階段。どういう形になるにせよ電車が来るかも知れないと思ってみていると、あっさりその期待は裏切られるが、異様なセットが何も言わないで今の不穏の社会の空気を舞台にみなぎらせる。二十年ほど前にKERAが「病気」を演出するまでは別役作品は見る方も、やっている方も解らないのが普通で、ケラの言い方に従えば「宙を見つめて独り言のように言い合う」のが普通の別役不条理劇のやり方だった。ケラは「病気」を爆笑劇にしてやって見せて別役作品は新しい顔を持つようになった。不条理も笑ってしまえば、リアルだと解る。新しい現代劇の発見である。
加藤拓也はもう一つその上を行く。
この作品派別役も老年になってからの作品(92年)で人間の生と死が取り上げられている。
幕開きに棺桶を担いだ五人の男が現われ、それが福引きの景品であるという笑劇的展開があり、それなら、そこには死体が必要だから、どうせ人間は死ぬことが決まっているのだから誰か死んでみたら・・・というような展開になる。で、人の生と死の意味や役割が展開する。極めて日常的な会話と論理展開の中で、人の生と死の笑いも残酷さもさりげなく広がっていく。後半女性二人が出てきて、生と死は一層日常化して、五人の紳士たちの建前は無力化されてしまう。
ここも加藤演出の冴えたところで、ほとんど、どの台詞も日常レベルと同じテンポで進んでいく。シリアスになることなく、昔の宙にらみとは逆の超日常化である。こうなると、別役ドラマも現代の日常ドラマになる。そこが加藤演出の新しい発見である、
棺桶と、それをおく二脚の台、落ちたら死にかねない下の方の段がない梯子など、日常のすぐ隣にある道具が、地下鉄のホームというセットと相まってこの別役ドラマから現代のホラー喜劇のような味までも引き出している。(美術・松井るみ)1時間10分。アッという間に終わる。