天守物語 公演情報 SPAC・静岡県舞台芸術センター「天守物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「人間界と自然界の調和をテンポよく描く」

     3年ぶりに静岡に行きSPACの『天守物語』の初日(5月3日)を観た。「ふじのくに野外芸術フェスタ2023」での上演である。

     駿府城公園に入り城郭を目にしながら特設会場へと歩いていく、その道中からすでに物語の世界に入っていくかのような錯覚にとらわれた。奇しくも同日から玉三郎演出、七之助主演で同作が姫路城に組まれた平成中村座で上演されるというから面白い。

    ネタバレBOX

     演者たちが鐘や太鼓を演奏しながら舞台上を交差する幕開けが、いかにもこれから宮城聰の芝居が始まるのだという気分にさせてくれる。原作通り天守から侍女たちが釣り糸を垂らして花を集める場面があるのかなと思いきや、そこはカットされいきなり客席側から富姫(美加理)が現れ天守へと帰っていく場面になる。白塗りで鯉のぼりの意匠が印象に残る着物を身にまとった姿に目を引かれるが、語りを担う阿部一徳がドスを利かせて、この美しい姫が異形の者であることが分かる。

     まもなく亀姫(榊原有美)の出になるが、ここで思いがけず岡林信康「山辺に向いて」がかかり驚く。思わず目を上げると薄暗がりの奥に尾根が見え、ここは自然のなかなのだと気がつく。亀姫の造形は幼くコミカルで笑いを誘い、その後の朱の盤坊(吉植荘一郎)が富姫への土産に差し出した人首の血を舐め回すグロテスクさとうまくコントラストがとれていた。

     とっぷり日もくれて月がこうこうと輝くなか後半の図書之助(大高浩一)の出になる。当初は警戒していた富姫が図書之助の無垢さ、まっすぐさに惹かれ、「返したくなくなった」と漏らすくだりに恋の実感が湧くが、玉三郎の富姫が高貴な女性が純真な若人に惹かれるという造形であったのと比べると、美加理・阿部の富姫はあくまで異形の者であることに力点があり、それによってこの二人に異界と人間界の結びつきというニュアンスがより強く出てくる。あとは原作通り城の者に追い詰められた富姫と図書之助が獅子頭に隠れるが攻撃を受けて一度は失明するものの、修理(山本実幸)の働きで光を取り戻して空を見上げる場面で幕である。最後にまた流れる「山辺に向いて」が冷たくなり始めた空気に心地よく響く。

    「ふじのくに せかい演劇祭2023」の記者会見での私の質問に対する宮城の回答通り、本作は作品の時間軸はそのままに現代に合わせたテンポ感でスピーディに展開していった。テキレジもさることながらセリフ部分を担う俳優たちが泉鏡花の言葉をたっぷり語りつつも時折現代語を交えていたところも大きいだろう。いつもながら出演者による大陸的な雰囲気の音楽(棚川寛子)の演奏も躍動感にあふれている。久しぶりに、十二分にSPACの作品を堪能した。

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    2024/04/03 20:29

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