実演鑑賞
満足度★★★★★
沖縄のサトウキビ農家の一家の物語。反戦地主なので政府の卑劣な嫌がらせがかけられるが、死んだおじいのあとを継いだ和子(新井純)は、契約拒否を貫く。政府の離反策によって、反戦地主の一家は、集落で孤立し、かつてのユイマールは壊れてしまったというセリフもある。そこに、国会議員秘書になった杉浦(高井康行)、防衛施設局沖縄本部の久保直子(稀乃)がきて、沖縄の現実と本土の人間の考えがぶつかる。
この芝居の見どころはこの後にある。9月4日の少女暴行事件が、この一家に身近な問題としておき、見ながら心がワジワジした。和子の「50年間、あきらめていた。せめて契約はしないと思っていた。でも、それだけじゃ足りなかった。アメリカは罪のない少女を踏みつけにして、それで許されると思っている。私はもっと声を挙げなければいけなかった。自分で、自分の言葉で」のセリフが胸に響いた。
さらに10月21日の沖縄県民総決起大会の横断幕、「地位協定の抜本的見直し」の横断幕。今の辺野古の問題も、オール沖縄もここから始まったのだと、30年前が思いだされ、思いがけず涙がこぼれた。前半の杉浦の「いまも日本も沖縄も占領されたまま」という解説ではなかったことだ。
前作「カタブイ、1972」の印象的なセリフもリフレインされる。「本土にいると、沖縄のことは遠くの土砂降りなんです」「でも、あんたは一緒に雨に濡れてくれている。それで十分だ」
重い主題をストレートにぶつけつつ、笑いも多い舞台だった。孫娘役の宮城はるのの歌三線もよかった。沖縄民謡の若いスターらしい。安室奈美恵に熱を上げているという設定もほほえましい。芝居見物のだいご味を満喫した。当日パンフ、資料配布もよかった。とくに、沖縄民謡の歌詞カードのおかげで、劇の内容と歌詞が合致していることが分かり、理解が深まった。総決起集会の晩の、カチャーシーで歌う「唐船ドーイ」の「今日の嬉しさは何に例えられる」の歌詞は、何よりぴったりだった。
1時間50分
全3部作の第二部。第一部「カタブイ、1972」の概要は、以下のサイトで読める。戯曲は『悲劇喜劇』1923年5月号に掲載。第3部「カタブイ、2025」は来年11月、紀伊国屋ホール。楽しみだ。
https://performingarts.jpf.go.jp/J/play/2302/1.html