実演鑑賞
満足度★★★★★
遅ればせながら、作者には岸田戯曲賞を、という中身のある市井の小劇場作品である。
関西小劇場の老舗MONO、かつて「-初恋」でそのフレッシュなゲイたちの青春を見てからもう三十年。作者土田英生の下に集まった五六人のメンバーで独自の演劇世界を作り上げてきた。「ヨーロッパ企画」とともに東京でも固定客を持つ劇団MONOの年一度の東京公演だ。時代の変遷も感じる。
ドラマの世界は御菓子司 亀屋権太楼という京都あたりにある和菓子の老舗。そこで展開する一族の物語は、ちょっと手を入れれば松竹新喜劇でも上演できそうな「あるある」の内容なのだが、そこに巧みに現代を忍び込ませて、現代劇としては大きな冒険もしている。そこに作者と劇団の円熟も感じる。話は和菓子屋の当主が死んで残された家族と従業員のその後、五六年の物語なのだが、観客の予想通り、店はたたまなければならなくなる。
そのメインストーリーの組み方はさすがベテランだけあってうまいものだが、その中に現代的なドラマが見事に組み込まれている。
一つは、現代でよくあるSNSの評判と、歴史に対する加重な信頼への批判である。関西らしい地域社会のなかで「世間の評判」が、生活を押しつぶしていく様を喜劇的に描きながら、リアルを失っていない。特に、加害者・被害者と一方的になりがちな人々の現実社会で揺れる変化が多様に描かれている。
二つ目は関西を舞台とすると、タブーになりがちな同和問題を実態に目をそらさず、偏見を持たずに取り入れていることである。ここでも一方的な立場はとられていない。そのバランス感覚の良い良識の戦う姿勢は評価できる。昭和の時代にはさまざまな問題をはらみながら社会問題として常に採り上げられてきた同和問題も、紆余曲折を経て、現在はこういうことなのであろう。表向きにはすっかり消し去られている問題をあえて取り込んで、巧みにドラマ化している。
さらに言えば、この問題も含めて、劇団が関西を離れず、地方劇団としてのルーツ(現実には東京が劇団員の生活の場であろうが)を生かして演劇活動を続けていることも評価したい。東京にはこういう劇団はもう、喇叭屋だけになってしまった。
客席は9分の入り、週末は完売しているという。土田の作品は空振りも多いのだが、いつもどこか新しいところを見つけようとする。今回は作者の良さが詰まっている。この際忘れていた賞をあげたいものだ。