実演鑑賞
満足度★★★★★
ケラの頭の上にウクライナとガザの戦争が、重くのしかかっていることがわかる稀有な作品。ケラのような、一見、浮世離れした別世界を舞台上で追求する演劇人でさえ、これほど時代の動きに強く反応するとは意外だった。
もちろんストレートな反戦ではないし、ブラックなユーモアで一貫している。しかし、開幕から最後まで、周辺で砲声が鳴り響き、西と東に分かれて内戦が長く続いている設定である。若い男たちは死んでほとんど残っておらず、女性と子供が戦場で戦っている。「戦争のおかげで食べている」軍需工場を経営する一家の物語となれば、戦争にどう向き合うかは避けて通れない。ときおりつけるラジオから、「本日の死亡確定者数」が知らされ、「○○はいなくなってしまった」が延々続く投書や、DJ自身の「墓森の父が職を失った。墓地を兵器工場にするからだ」という 告発が、家の外では何が起きているかを思い出させる。そのうえで、ラストのどんでん返しと急展開は見事だった。
誤解のないように書いておけば、堅苦しい社会派ではない。基本は、ナンセンスとすれ違いの笑いに満ちた、俗物ブルジョア一家のホームコメディである。作家の姉マーゴ(宮沢りえ)と妹(鈴木杏)の、欲しいもののとりあい(真剣だが笑える)、テンションの高い居候ナッツ(小池栄子)、アル中の母グルカ(峯村リエ)、家の財産を狙う、父の秘書のソフィー(水川あさみ)、登場は一番遅いが、重要な舞台回しの編集者ミロンガ(堀内敬子)、そしてナレーターでもあるおしゃべりなメイドのネネ(犬山イヌコ)。花も芸もある女優陣は、期待にたがわない。宮沢りえと小池栄子の、呼び捨てで呼び合って心が通じ合うダンスシーンなど、見ているだけで幸せな気分になる(二階では父が危篤だというコントラストもいい)。
徴兵忌避で家出した夫から、何通も届く手紙が道糸になり、戦争と直接つながってもいる。
上演時間3時間(20分休憩こみ)