う蝕 公演情報 世田谷パブリックシアター「う蝕」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    年始の地震を踏まえて構成が変更されたらしいけど、近くには監獄島である「カノ島」しかない
    交通の便もさほど良くなさそうな漁業と観光業で生計を立てている人が主と思われる島で起こった
    “う蝕”とされる自然災害によって、数多くの人が一瞬のうちに溶解した地中に飲み込まれた……と
    いう設定、かなりの影響を受けている、というかまんまだなと。

    ”不条理劇”と銘打たれているけど、見る人によっては鎮魂の一作にもなるし、別の側面から見れば
    軽くサスペンスにもなるし、単純に俳優目当てであればいい演技とともにハートフルで少しクスッと
    できる作品を観ることができた、ってお得な気分になれる。

    とっつきにくそうなタイトルとポスタービジュアル、あらすじに反して実は結構間口が広いと思う。

    ネタバレBOX

    坂東龍汰や綱啓永など若手人気俳優を起用しているので、どうなるんだろうとかなり興味関心
    あったんだけど、みんな何気に叩き上げの人たちばかりなので、尋常じゃなくお芝居が上手い。

    特に新人医師として「コノ島」にやって来た木頭役を演じた板東が、嫌味にならないレベルの
    ツッコミやジョーク、まっすぐしつつもどこか軽いキャラクターで、ぐいぐい作品を引っ張って
    いっていたのが印象的。島に移住している医師・根田役の新納慎也とのタッグがカッチリと
    ハマっててついつい笑っちゃう。

    というか、この劇ウケどころが多いんですよね。めちゃくちゃ引っ張るササキザキさんネタとか(笑

    舞台美術もスゴかった。ひび割れた巨大な漆喰壁みたいなのにキラキラとした薄ピンクのきらめく
    光が照らされる中、右端に1本だけちょっとした丸太が立てかけてあるという意味深なセットが
    組んであるだけで「これどうなるの?」と思った人ほとんどだと思うんですよ。

    まさか開幕とともに真ん中から花開くがごとく、上下左右がバッと開いて視界にがれきの山の
    新しいセットが奥まって広がるなんて誰も思わないんじゃないですか……? 爆音で響いた
    冷たいダークアンビエントや、大きく開いていく漆喰壁セットの向こうに一瞬だけ見えた、
    火災を思わせるメラメラとした赤い光とか、不安と期待を煽るの上手すぎだなって。

    作品前半の方は、最近の世情を思わせるようなネタをチラチラ挟みつつ、でもそこに作者としての
    メッセージを込めないことで、逆にエモくなりすぎるのを避けていた気がする。私たちが今いる
    客席と舞台上をリンクさせつつ、完全に感情移入まではさせないようにするというか。

    最後の方で木頭と加茂がすでに「第2のう蝕」で亡くなっていることが明言され、物語は一気に
    鎮魂的な方向に向かうわけで、加茂の亡くなった後に墓標を立てる静かな終わり方もそれを
    踏まえているんだろうけど。

    この物語、主要人物以外の第3者の目が入ってこない(「第2のう蝕」以降、ほとんどの住民が本土へ
    避難しているという設定)ので、実は死んでいるのは6人全員なんじゃないか?って思ってた。

    ササキザキさん最後らへんで消えてたのも「あ、もしかしたら……」って感じたし、根田も災害後に
    自分がどう感じ考えればいいか分からなくなったことにひどく苦悩してたけど、未曽有の災害で
    心の傷を負ったという見方のほかに、もうすでに死んでいて感情や感覚を失っちゃっているのでは、と
    感じた。

    地中深く沈んだはずの木頭の遺体だけ見つけられた、というのも不思議なんだよな。死んでいることにすら
    気付かないまま、沈丁花手にして慰霊と遺体発見に打ち込んでるんじゃないか……って。こういう読みも
    できるので一見の価値はあると思う。ただ前半特に世界観と密接した長尺のセリフが続くので、ウトウト
    してしまう危険性はありますが……。

    「考えるのが無理だったら祈り続ければいい」というササキザキさん(笑)の言葉すっごく刺さったな。

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    2024/02/14 18:21

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