身替座禅 公演情報 国立劇場「身替座禅」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    進化した歌舞伎鑑賞教室
    以前は、「高校生のための」次に「青少年のための」と、時代とともに冠が変り、現在は特にくくりがなくなり、広く門戸が開放されたようである。
    そのためか、6月は姫の色仕掛けで上人が堕落する「鳴神」、7月は浮気が妻にばれる「身替座禅」で、学生向けならふさわしいかどうか(笑)。
    以前、観た時は学生以外は土日限定でプログラムも有料だったが、今回はプログラムも無料配布されている。平日夜に「社会人のための歌舞伎鑑賞教室」という日も設けられており、このときは多少、解説の内容も変るのだろうか。
    今回、初めて映像を使い、解説者が私服で舞台にあがることが許されたそうだ。確かに、私たちが学生のころと比べると隔世の感がある。
    しかし、16歳の中村隼人、19歳の中村壱太郎、ジャニーズ事務所にいそうなイケメンで、こういう若者が歌舞伎をやっているということで初めて歌舞伎に触れる若い人には親近感を持ってもらえるのではないだろうか。良い意味で進化している。
    日ごろ古典芸能になじみのない人にお薦めである。

    ネタバレBOX

    歌舞伎鑑賞教室の解説のお手本というのが長く守られていて、中村獅童がまだ無名時代に担当して、かなり若者ウケするファンキーな解説をしたとき、演劇雑誌や新聞の劇評がこぞって苦言を呈したことを私はいまだに覚えている。
    だから、今回、「踊る大捜査線」のテーマ音楽に乗って、劇場外の中村隼人、中村壱太郎の映像が流れ、ラフな私服の2人が客席から登場したときはびっくりした。
    昔は、歌舞伎の決まりごとをお行儀よく解説したが、今回はバックステージツアーのごとく、まず劇場機構を立体的に説明してくれたのがよい。回り舞台や昇降舞台、スッポンなど、今回の演目では使わない機構を説明することにより、ほかの舞台にも興味が沸くだろう。ふだん中を覗けない黒御簾の解体までやって見せてくれた。簡単に歌舞伎の歴史を舞台の変遷とともに説明してくれたのもよい。女形の化粧過程も隼人が楽屋映像で見せてくれる。
    今回の「身替座禅」は中村富十郎監修。「身替座禅」はいわゆる松羽目物(能や狂言に題材をとった歌舞伎演目)で原作は狂言の大曲「花子」。六代目菊五郎から受け継いで二代にわたって中村勘三郎の当たり役になっているが、過度に「艶笑コメディー」化しているとの批判が歌舞伎界、狂言界両方から出ていた。今回はその批判に応えたような演出で、いたずらに笑わせるのではなく、夫婦の自然な思いに焦点を合わせたのが新鮮だ。
    今回主役の右京を勤めた中村錦之助の演技も二枚目半に抑え、奥方玉の井(坂東彦三郎)の化粧もいつもの鬼婆風ではなく控えめ。美しい腰元千枝、小枝を解説役の2人が勤める。壱太郎が曽祖父の4世中村富十郎そっくりなのに驚き、隼人と同じ役を父の錦之助が勤めていたことがついこの間のよう。歌舞伎は継続して観ることによりこうした楽しみも味わえる。隼人の化粧はもう少し綺麗につくれると思うが、歌舞伎役者は美形ほど化粧が下手というが本当だ(笑)。
    「身替座禅」のあと、今度は袴姿で壱太郎、隼人が登場し、「松羽目物」の説明を行い、狂言の野村萬斎の「日本語であそぼ」の物まねも披露してくれた。そのあと、松羽目物の「棒縛り」の一部を踊る。両手が使えず難しい踊りだが、若い2人が楽しげに踊る姿に盛んな拍手が送られていた。
    自分が10代のころ、近所の高校生に「歌舞伎って太ったおじいさんが白粉塗って踊ったり、のろのろ話すやつでしょ」と言われた。もし、昭和のころ、自分と同世代の勘九郎(現勘三郎)や八十助(現三津五郎)、梅枝(現時蔵)、大河ドラマで当時人気が出た光輝(現歌昇)といった若い人たちが解説をやっていたら、もっと中高生にも共感が持たれたのではないだろうか。当時もそういう要望はあったが、若手俳優では解説に適さないという意見に跳ね除けられていた。封建的な世界が変わるのには時間がかかるのだ。

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    2010/07/21 15:54

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