夜は昼の母 公演情報 風姿花伝プロデュース「夜は昼の母」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    アル中の父親(山崎一)をもつ4人家族の話である。場所はデンマーク。最初は兄(樫山隼太)が弟ダヴィド(岡本健一)のセクシャリティ(女装、女性へのあこがれ?トランス?)を攻撃するところから始まり、朝、父、母(那須佐代子)も食堂におりてくる。母のしつこい咳や、食材費の工面の父の悩みと続く。父が酒で失敗したこと、施設に入っていたことが語られ、そして…父がついに隠れて酒を飲む。ここまでの過程が長い。ここから父のごまかしがおかしくて、家族同士の本気の肉弾戦になり、舞台が面白くなる。葛藤の原動力は父の酒への執着だけなのだが、その執着がとにかく半端ない。山崎一の独擅場だ。
    3時間20分(15分休憩)

    ネタバレBOX

    後半の、父と他の三人とのくんずほぐれつの「闘争」は生々しい。現場を押さえられても、隠していた酒瓶をダヴィドに床下から掘り出されても、「俺は一滴も飲んでない」と白を切る父親が面白い。人間、あんな開き直って嘘がつけるのだ。妻に「また飲んだら別れる」と迫られ、「もう絶対飲まない。信じてくれ」と約束したのも、全部その場しのぎに過ぎなかった。しかし妻に縋り付いて約束するときは、本当に改心したとしか見えない真剣さなのである。こうした家族のせめぎあいが見どころである。ただし芝居を通して、さまざまな表情を見せるのは父親だけ。他は、16歳!の上目遣いの弟、なぜかいつもいら立っている兄、疲れ切った母親、という表情があまり変わらない。最後に父は酒に酔ってすべてを超越し、心も崩れてしまい、いつまでも不気味に笑い続ける。この山崎一の演技がすごい。

    父親がなぜアルコールにおぼれたのかが描かれないので、家族の葛藤は肉体的衝突より深くならない。ユージン・オニールの「夜への長い旅路」は、母が麻薬におぼれたのは、かつて赤ん坊を死なせたからであり、父はその時浮気(か仕事か?)で家にいなかった負い目があるために強く出られない。今作は、家族のこれまでの歴史、状況の必然性が透けて見えないところが、決定的に違っている。父が「護送船団に乗っていた」というから、戦争のPTSDか?と思ったら(もしそうなら、芝居の見え方がだいぶん変わる)その話もでたらめらしい。

    途中、母親が急にダヴィッドに船に乗れと言い出して衝突する。このように兄と弟、母と弟も互いにうまくいっていない。(兄は弟にサックスを「ちゃんと断れば貸してやる」と優しいところも見せるが)。でも、父親に対しては、3人が団結する。ただし父を見捨てて憎み切れないため、葛藤はずるずると続くのだ。

    ダヴィドがナイフで母ののどをかき切る黙劇、父ののどを切る黙劇がインサートされる。ダヴィドの妄想と見える。これらのシーン、セリフはないが、戯曲にあるのだろうか? 
    自転車の6日間レースとか、アメリカの死刑になりそうな作家についてのラジオニュースとか、あまり意味のない話があれこれある。作者の体験から取り込んだものだろうか?アメリカの処刑方法が青酸ガスというがカリフォルニア州でそんな方法をとっていたのか?ホロコーストのガス室を示唆しているのか?

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    2024/02/08 01:27

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