川辺市子のために 公演情報 チーズtheater「川辺市子のために」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    吉祥寺で『ヘルマン』を観た際、挟まれていたチラシを読んで気になった。チケットを取ろうと思ったら全公演完売。何か妙に観たくなってキャンセル待ちに申し込んだ。主演の大浦千佳さんが「もう絶対に今後この役をやることはない」とツイートしていたのも一因。運良くキャンセル待ちでチケットが手に入ったが当日はまさかの大雪。「不要不急の外出を控えて」の気の滅入る悪天候。いや逆に凄い作品が観れるチャンス、とばかりサンモールスタジオはガチガチの超満員の客で溢れ返った。素晴らしい熱演をたっぷりと味わい、階段を上ればサンモールの外はガチガチの積雪。ズボズボ靴がめり込んだ。

    映画は観ていないので比較は出来ない。劇団の主催自ら監督して映画化、主演に杉浦花さん。
    川辺市子役の大浦千佳さんに妙に見覚えがあったが、『柔らかく搖れる』のシンママだった···。凄い振り幅。
    語り口が面白い。失踪した一人の女性を巡る、各年代の知人達の回想録。刑事がそれぞれが知っている限りの川辺市子のエピソードを語らせていく。その断片的な話を元に観客は不在のその女性について想像を巡らせる構造。
    サンモールスタジオの狭いステージの中心に畳4枚程を組み合わせたスペース。周囲を椅子が逆L字型に囲み、証言者達が座る。
    相対するようにL字型に配置された客席、観客はそれぞれの記憶が再現されていく様を息を潜めてただ見守る。通路さえ物語の重要なステージに。

    非常に映画的。半纏をすっぽり被って声しか聴こえない大浦千佳さんがしゃがみ込んでいる。その登場シーンからゾクゾクする。「川辺市子は嘘つきだ」との証言や語る人によって状況が食い違う出来事。嘘をついているのか記憶違いなのか妄想なのか?結局のところ、真実は判然としない。煙のように残像のように川辺市子の断片が煌めいては瞬いて、そしてふっと消えてしまった。

    驚いたのは刑事役の男。寺十吾氏っぽいなあ、と思っていたら本人だった。ありとあらゆる演劇の重要な役は全部寺十吾氏が司る決まりなのか?マジで驚いた。

    平山秀幸監督の名作『愛を乞うひと』や阪本順治監督の傑作『顔』、たっぷりと漬け込んだ今平風味の下味。そして物語を彩るのは甘酸っぱくも激しき痛みの走る恋心、どうにか自分がしてあげられることがほんの少しでも何かきっとあるんじゃないだろうか?何一つ出来やしない無力な男が陥る勘違いの妄想、誰にも益しない醜い純情。周囲にそんな情念を呼び起こす魅力的な女の一代記。
    だが彼女が本当に心から求めていたのは無記名の穏やかな日々、ありきたりな単調に繰り返される毎日でしかなかったのに。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    1987年生まれの川辺市子が2015年8月に失踪してしまう。戸籍上では川辺市子なんて女は存在しない。川辺月子という1990年生まれの女はいるのだが。
    東大阪市にある同じ団地の幼馴染、平井珠生さんは「市子が小学校に入って来ず、3年後月子として入学してきた」と語る。同級生で仲良くなった花村柚祈(ゆずき)さん。
    エロエロな母親役の田山由起さん、家に入り浸り嫌らしく手や足の指をチュパチュパ舐め回す情夫の奥田努氏、名演出。
    初めての彼氏、植田慎一郎氏と片思いを拗らせてつけ回す朝田淳弥氏。パティシエを目指す新聞配達員、きばほのかさん。間違い電話から市子と巡り合い同棲することになるサトウヒロキ氏。

    女性の語る川辺市子のエピソードはリアル。きばほのかさんの話なんか展開が巧い。逆に男性陣の話は作り物めいていて、どうもマンガっぽい。後半の展開に無理があり、ちょっと勿体無くもある。
    だが、「何でもないような事が幸せだったと思う」的な余韻は美しい。冒頭とラストに繰り返される恋人達の日常会話。無意識に過ごしていた生活の中に散りばめられていたかけがえのない優しさ。

    ※コメント有難うございます。自分もかなり観劇の参考にさせて頂いております。

    1

    2024/02/07 06:36

    0

    0

  • 凄いなぁ!見物(ケンブツ)のかがみ(鑑)です!見落としました。その夜は実にくだらないものを見ていて、同じ新宿でこのような名演があったと知りませんでした。完売です。いつも読ませていただいています。

    2024/02/08 11:37

このページのQRコードです。

拡大