みえないくに 公演情報 公益社団法人日本劇団協議会「みえないくに」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「オデッサ」に引き続き言葉のドラマだ。同じ池袋の東京芸術劇場、大劇場のプレイハウスでは三谷幸喜、地下のシアターイーストでは、今年が楽しみな鈴木アツト。上がベテランの客受け狙いのコメディなら、地下はユニークな視点の現代劇だ。
    こちらの素材になった言葉はグラゴニア共和国だけで話されているグラゴニア語。人口も60万と数が少なく、まだグ日辞典も日グ辞典もない。その言葉に魅せられた翻訳者(壮一帆)が小さな出版社で定年前最後の仕事にしようと熱意を燃やす編集者(土居裕子)とそれを引き継ぐ編集者(田中愛実)の応援を経て初の辞典を刊行しようとしている。この国にはこの言葉で書かれたノーベル文学賞級の女流作家の未紹介の作品もある。イメージだけで出てくるこの女流作家(岡千絵)が「みえないくに」の孤立言語の作家らしい味を出している。
    翻訳者と出版社の出版契約が整ったところで戦争が起きる。グラゴニアが侵略国となって、世界の敵になったのだ。留学した翻訳者は、あのような善良な国民たちが侵略するとは信じられないというが、言葉も知られていない国のことゆえ、衆寡敵せず、国連の下でこの国はなかったことになってしまう。現代のSNS状況を張り付けた展開で、出版社も叩かれては存続も怪しいと社内論争の末、辞典の刊行も中断してしまう。
    信頼できると思っていた現地の作家もあっさり侵略側に回ってしまって、その理由が不明なところなど、こういう事件にありがちの日本的空気をついている。話の展開はかなり乱暴なところもあるのだが、永井愛流の風俗模様で現在の世界情勢や、日本の国際音痴ぶりを面白くドラマ化していて、結構客も面白がってみている。1時間45分。文化庁の助成があったためか、俳優の配役も贅沢で、楽しんでみられる。文化庁が演劇に口を出すと、新国立劇場のようにむやみに金をばらまくだけで、ろくなことにならないが、助成金で演劇人たちに海外を体験させる事業は成功している。
    せっかくの舞台の公演も上の劇場に比べればわずか五日ほどだし、小屋も小さく入りも七割ほどだったが、この作・演出の鈴木アツトは、頭でっかちになりがちのテーマも素材の取り方も、作劇術も、ダンスや舞台美術を芝居の中で生かす手法も新鮮で期待できる。

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    2024/01/20 00:59

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