みえないくに 公演情報 公益社団法人日本劇団協議会「みえないくに」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ケストナーやスターリンなどの評伝劇で、近年急速に頭角を現した鈴木アツト氏が、評伝劇とは違う、現代の世界と翻訳の問題に切り込んだ。日本の敵どころか「世界の敵」になった国の言葉を広める辞書を作ることは、日本国民を敵に回し、会社もつぶれるのではないか。ロシア語・ロシア文学をめぐる現在のジレンマを、架空の小国の話に置き換えて、敵とみなしたら、その国に関わる全てが否定されてしまう現代の極端な風潮を見つめ直させる。なかなか難しい課題に取り組んだ意欲作である。グラゴニアが隣国に侵攻した、というところで、舞台三方の大きな本棚が倒れて、どばーッと本が散乱する演出は、ダイナミックだった。

    架空のグラゴニア語をいろいろ肉付けして、舞台に乗せたのは面白かった。日本語は、雨に関する言葉がたくさんあるが、グラゴニア語は物のにおいについての単語が豊富なのが特徴とか。「ムルケアス」ということばは、「老木の香おり」の意味で、同時に「老人の生きた時間」という意味があるとか。このマイナーな言語を学ぼうと、べてらん編集者(土居裕子)が、家じゅうの物に、グラゴニア語を買いたポストイットをつけていた、というのは「なるほど!」と思った。モノになりそうな学習法だ。

    一方ストレートな議論中心で、遊びというか、芝居にゆとりがないのが残念。人物の生活と感情にもう少し厚みが欲しかった。

    ネタバレBOX

    いろいろ、突っ込みたいところはある。グラゴニアは人口60万の認知度の低い小国という設定だが、そういう国の話題が急にニュースになったら、グラゴニア関連書は売れるのではないか? 今こそ出版しようとなっておかしくない。大国ロシアへのバッシングをそのまま小国に当てはめたためにズレを感じた。それをいえば、そもそも小国は、戦争を仕掛けたりしない。反撃されて、負けるのは自分たちと分かっているから。実際、グラゴニアは、空爆を受けて国連?に占領統治される。独裁政権で人権抑圧をしている、世界の孤児(北朝鮮やミャンマーのような)という設定がよかったのではないか?

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    2024/01/18 23:28

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