エネミイ 公演情報 新国立劇場「エネミイ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    演出の手腕が冴え渡った舞台
    この作品、蓬莱さんの脚本が一定レベルに達してはいるものの、もしこれが、裕美さん演出でなく、キャストもこのメンバーでなかったとしたら、結構退屈になり得る要素の強い作品だったかもしれません。
    何しろ、1幕終わりまでは、スケッチに終始し、ドラマはちっとも動き始めないのだから…。
    1幕が眠くならずに済んだのは、ひとえに、裕美さんの演出力と、キャスト陣、特に、高橋由美子さんの力演に助けられた感が強くします。
    最初、由美子さんの演技が誇張されすぎている印象を受け、間もあまりにもわざとらしく、いつもの裕美さんらしからぬ演出だと、腑に落ちない思いがしたのですが、これは、1幕で、観客の気持ちを逃がさないための計算された演出なのではと、幕間前に、わかった気がしました。

    キャスト陣、皆好演でしたが、この舞台の殊勲賞は、何と言っても、高橋一生さん。彼がこの役でなければ、蓬莱さんが描きたかったテーマは、きっと浮かび上がらなかったと思います。本当に、素晴らしい演技でした。

    ネタバレBOX

    裕美さん演出の舞台は、いつも、セットも小道具もリアルなモノが多いと思うのですが、この舞台は、他は皆リアルなのに、一つだけ、息子がやっているゲームの映るテレビだけが、透明なテレビ状の形態で、ただテレビゲームの音だけは、リアル以上のリアルさで、客席にまで、響き渡っていました。
    この演出が、実に、秀逸!この作品のテーマを見事に具現化する効果的な小道具となっていました。
    つまり、主人公の青年が戦っている【敵】は、実体がなく、音だけで、彼の心を攻撃して来るのです。

    三里塚闘争を闘った、中年男性3人ではなく、この作品の本当の主役は、今を不安と焦燥の中で生きる、コンビニバイト店員のこの31歳の青年だったと思います。
    作者が、自分とほぼ同年代の、一生さん扮するこの息子を真の主役にしたことで、この作品が、嘘臭くなく、観る者の胸に迫る佳作に成り得たのだと思います。

    彼が、任されている、バイト先のシフト決めの難しさを、体を震わせながら、慟哭と共に、訴えた時が、たぶん、一番、観客に、この作品のメッセージが伝わった瞬間だったのではないでしょうか?
    一生さんのあの演技がなければ、伝えられなかったメッセージかもしれません。
    今も尚、活動を続けている2人の男性のキャラクターには、若干疑問もありましたが、彼らを主役にしなかったことで、あまり表面化せず、全体として、虚構らしからぬ実在感が、登場人物全員に宿されていたように思います。

    最後の、母親の、全てを悟った上での、解決策は、発想と言い、梅沢さんの飄々たる演技と言い、申し分ない場面でした。
    最後まで、観ると、1幕のただのスケッチ風の場面や他愛もなさそうな台詞に、全て重要な意味があったとわかる、結果的に、大変秀逸な戯曲でもありました。

    3

    2010/07/15 21:28

    0

    0

  • KAEさま

    >戯曲セミナーで、裕美さんがいらした時に伺ったのですが、自転車キンクリートは、高校演劇部から、旗揚げしたんだそうで、その行動力に、ビックリ致しました。

    ああ、そうらしいですね。メンバーの同級生の子も付属高校出身でそう言ってました。だから、お母さん同士も親しく、サポーターの結束が固かったんですね。見ていてうらやましい気がしました。

    2010/07/16 05:03

    きゃる様

    鈴木裕美さんは、私の叔母の親友のお嬢さんで、裕美さんは、私の従兄弟の幼馴染らしいのです。
    私の叔母の御主人は、藤間流の家元の後見人的立場の舞踊家なんですが、その叔父の稽古場は、裕美さんのお父上が建てて下さったそうです。
    私は、数年前まで、叔母の親友の鈴木さんが、まさか裕美さんのお母上とは露知らず、先日、そのことがわかった後、裕美さんに「大ファンなんですよ」と御挨拶させて頂いたら、裕美さんも大変驚いていらっしゃいました。
    裕美さんも、昔は女優さんとしてやって行くおつもりだったらしく、私の従兄弟に鼓を習ったこともあると話されていました。
    戯曲セミナーで、裕美さんがいらした時に伺ったのですが、自転車キンクリートは、高校演劇部から、旗揚げしたんだそうで、その行動力に、ビックリ致しました。
    叔母の知り合いでなくても、私は以前から、裕美さんの演出家としての才気には敬服していて、鵜山さんと共に、大好きな演出家のお1人です。

    今度、わかったことですが、ということは、きゃるさんは叔母の後輩でいらしたのですね?
    まあ、つくづくご縁がありますね。(笑)

    2010/07/16 00:09

    KAEさま

    高橋由美子さんの1幕での演技の件や、ネタバレの内容を含め、まったく同感です。透明なTVモニターの件とか。高橋一生さんは若手ですが本当に巧い俳優さんですね。いつも感心します。
    KAEさんのレビューはやはり演劇を実際やっておられただけに、作り手の視点から分析されていて説得力があり、興味深いです。
    今回、鈴木裕美さんは凄い演出家さんに成長したんだなーと確認できて感慨深かったです。彼女たちを知ったころは大学卒業後から近く、まだ観客も身内や同級生の友人が多く、チケット売るのにも苦労していた時期です。その後もジテキンは小劇場ブームの中の若手集団として一過性人気で終わるかな、とも思ってたんですけどね。あのころの先輩劇団でその後、失速していっちゃったところもあるから、立派だと思います。

    2010/07/15 23:03

このページのQRコードです。

拡大