実演鑑賞
満足度★★★★
本ユニットの芝居は立ち上げ公演を含めて2本、配信で観ていたがこの度初めて劇場にて体験。画面と音量を調節しながら視聴するのと違って、おートラッシュ並みに叫んでるぞと。え~そこでその台詞を叫ぶか~的中津留戯曲+演出特有のくだりが例に漏れずあったりも含めて、終始面白く観た。
ストレンジ・アイランドとは日本の事かな?と想像していたが、架空の都市が舞台。横文字(英米系)の名前で呼び合う。
貧乏人の住む裏町、金持ちの住む表町という設定は、格差社会を極限化した近未来か、歴史上又は現在どこかにある状況か、しかしいずれにせよ現実社会のメタファ。
格差を容認する社会の行き着く果てのルッキズムへの言及は、自然淘汰や命の選別問題を想起させる。「美」を愛でる心を肯定し、その返す刀が醜さを蔑み、その持ち主たる存在を「切り捨てて良い」理屈を暗に肯定する。
・・表町の人間は「美しい」婚姻相手を選ぶ力があり、結果表町全体の容姿レベルは上がる。人々は美を求めておりそれを追求する権利がある・・。
傍若無人な発言を繰り出すのが、後半頻出する市長(村上)。彼はローマ帝国の皇帝のような衣裳で歩く。
(「美は多様である」との言葉がこれに対置され得る。が、この問題、個人が個別具体の思考と体験を経て「解答」を手にするしかない類のものだ。)
芝居の前半は主に裏町を舞台に、来たる市長選で現職を引きずり下ろすために候補者を立て、格差放置の政策を改めさせようと画策する者たちのグループや、彼らとは距離を取る者、選挙前に金を配りに来る市長の手下に金額の交渉をしようと画策する者らが、居酒屋に出入りする。
そして立候補者である女性(姉)は闇商売に足を突っ込んだ妹を持ち、父が妾に産ませた子である彼女らの前に、父の家業を継いだ「本妻の娘」が現われ軋轢を露見させたり、市長派、反市長派の潜在的対立が緩やかなドラマの動きを見せる。
また色恋の話では、不動産業を継いだ表町の男が店を訪れ、表町と裏町の違いに全く無頓着であるらしい彼がいきなり材木屋の娘に「結婚を前提としたお付き合い」を申し入れたり、市長の手下で悪い商売に手を染めている青年も、幼なじみである同じ女性を下っていたりする(親同士が二人の結婚を約した経緯もあるが彼は結婚のために手を汚して金を稼ごうとしている)。だが相手は「悪い事をしている人は嫌い」と何度もやっただろうやり取りを繰り返す。といった伏線が織り込まれる。
エピソードを全て紹介する紙幅と余力はないが、この後幾年かが過ぎ、人物らの状況の変化がある。トラッシュ作品の名物でもあったこの二部構成は、まるで変わっちゃってる面白さが笑えもし、人間の浅はかさを炙り出しもする。
波乱に富んだそれぞれの人生の歩みの中で、壁に突き当たり、真実に気づいて行く群像劇的なドラマの帰趨が控えている。だがこのドラマには狡猾な悪役とその忠実な僕が存在する。
「変化」の幾つかは劇的で、多様だ。真摯に生と向き合う一人一人の内なる心を垣間見せる一方、打算と権力への固執を続ける者が、手段を選ばず、少なからぬ犠牲を生む。冷酷なドラマでもある。既に構造的なレベルとなった悪弊が、膿を出し切るプロセスとはこういうものだ、というサンプルのような逸話と見るも可能。当然、日本の現在が重なる。