喜劇 二階の女 公演情報 劇団NLT「喜劇 二階の女」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    昔の新劇であるが、いろいろ考えさせるところがある公演だった。
    こういうドラマを面白がってみていた時代は確かにあったのに、今はもうこういう芝居は上演されないし,見にもいかない、忘れられている。
    原作獅子文六。戦前のフランス文学育ち。戦時中は、戦意高揚(とまではいかないまでも紛うことなき体制協力の)の新聞小説も書いていた。昭和二十年代の喜劇調ベストセラー作家。同時に戦後は文学座の支柱。
    脚本・飯沢匡。戦争中は新聞記者であり同時に韜晦した喜劇作家、戦後は編集者として今でいえば「文春砲」を連発。ジャーナリストの意味を世間に知らせた。児童向けラジオテレビ脚本演出で当時の子供は誰でも知っている。文学座で戦後混乱期の新劇脚本家。
    ともに文芸界の巨匠の名を得て世を去った。今「二階の女」を趣味的作品と批判することはたやすいが、この作品に込められた不幸な時代に遭遇した日本の知識人の苦い思いはいまの時代に、亡霊のように立ち上がってくる。
    原作小説は終戦直後、疎開先の地方のローカル新聞、愛媛新聞に連載された新聞小説。脚本はもう戦後も落ち着いて、八十年代になって飯沢匡としては晩年の本である。
    舞台は戦前の、戦争の空気が次第に濃くなっている時勢を背景にした当時の上層階級のホームドラマである。見どころを二つ。まず、
    あの時代環境の中で、原作者が疎開先で書いた悠々迫らない時代観察がすごい。当時の左右極端な世論に全く動じていない。二階の女は、シンボルに逃げたのようにも見えるが、よく見るときちんと時代を見て痛烈に批判している。今の時代を見まわしてなかなかこういう知識人はいない。時宜を得た企画だと思う。
    二つ。たぶん、ノーカットで(少しは切っているかもしれないが)上演した勇断。よく調べて再演に臨んだ鵜山仁の演出。博品館で上演三時間は長いが、芝居の面白いところを逃さず飽きさせない。演劇では、今更時代をなぞっても仕方がない面もあり、今はこの時代の時代考証は、これだけ丁寧にはやらないし、内容中心である。(たとえば、チョコレートケーキの舞台は、あまり風俗考証にこだわらない)。俳優たちも現代風の受け芝居をやめて、戯曲に書かれた風俗描写に忠実に演じようとしている。この舞台は、戦争直前のあの時代に生きた市民生活をフォローすることにより、時代の実相を見せてくれた。
    それにしても、苦い時代だった。芝居では珍しい温故知新であった。


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    2023/12/15 11:14

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