エネミイ 公演情報 新国立劇場「エネミイ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「敵」はどこにいる?
    とてもわかりやすいストレートな物語。
    笑いも少し散りばめられ、丁寧に物語が語られる。
    もちろん、役者たちの雰囲気もとてもいい。
    ぐっと引き込まれる台詞もある。

    休憩を入れて2時間35分の上演時間は決して長くなかった。

    ネタバレBOX

    蓬莱竜太さんの作なので、勝手にちょっとキツイ話かな、と思っていたら、そうでもなく、とてもいい家族の話だった。
    登場人物は、やや類型的かもしれないが。

    40年前の友人だと言う2人男が、会う約束をしていた、その家の父親に会いに訪れる。この家の父は、大企業で定年退職していて、特に趣味もなくぶらぶらしている。近々自分へのご褒美でヨーロッパ旅行をするつもりだ。ただし、家族は誰も一緒に行かず、1人だけの予定である。
    家には、フラメンコを趣味にしている母と、派遣切りで現在コンビニでバイト中の30代の息子、仕事と婚活中の、やはり30代の娘がいる。

    父は、なぜか尋ねてきた2人の知り合いに会いたくなかった様子。
    2人は、来週成田で行われる収穫祭に出るという用事もあり、その日まで3日間、この家に泊まることになる。

    この2人は、かつて学生だった頃に、この家の父と学生運動をしていたのだが、父のほうは、途中で運動を辞めたのだった。そのときに、40年後に お互いがどうなっているのかを確かめ合おうと言ったのだった。
    そして、農業をしながらも、現在も活動家である2人が訪れたのは、その40年後だったのだ。

    2人の活動家とこの家の父には、自分が過ごしてきた40年間という時間がある。その時間の殻の中にいて、その外にいるのは「敵」であると思おうとしている。つまり、自分の今までの世界だけは絶対に壊したくないのだ。

    この家の息子は、自分の気持ちを素直になかなか伝えられない。不器用で優しいところもあるが、それは自らは「敵」を作りたくないという自己防衛本能が働いているためであろう。
    結局、自分以外は「敵」と認識しているのかもしれない。

    だから、敵との戦い方も異なる。
    活動家の2人は「戦え」と言う。途中で転向した父親は、そういう気持ちにはなれないし、息子にもそう言わない。息子は初めからそんな気もない。

    自分の中にある見えない「敵」を相手に見てしまい、なかなか気持ちが通じ合わない男たち。

    しかし、女は違う、この家の母親は、後半からぐんぐんその存在感を示し、最後には、彼女の娘をして「この人にはかなわない」と言わしめる行動に出る。
    その娘も母親の血をまっすぐに引き継いでいる。
    女は強し、未来に向かって生きているのだ。

    そして、彼女たちがいるこの家族は、とてもいい家族なのだ。

    息子の激白で、男たちは、息子もやはり自分の「敵」と懸命に向かい合っているのだということに、ちょっとだけ気づく。
    一見違うようでも、抱えている「敵」は、本当は同じだ、ということを。

    しかし、女(特に母親)からは、ここにいる男たちには、何もいがみ合うことがない、同じことなのだ、ということが、きちんと見えている。

    たぶん、息子以外の男たちは、それに気がついたとしても、自分の考え方は今から変えられるものではない。
    だけど、「受け入れる」ことはできるのだ、という、いくつかのピースが散りばめられていた(娘の婚活のことなど)のが良かった。

    「受け入れる」ことができると「敵」の要素は薄まっていく。

    また、ラストに、父と息子が、すこしだけ胸を開き(受け入れ合おうとする気持ち)、やや未来に顔を向けるところが、無理がなく、とてもいいのだ。

    蛇足だが、息子の友人・山田の本業には笑ってしまった。

    4

    2010/07/03 02:52

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  • きゃるさん

    確かに後味の良さはありました。
    てっきり、もっとドロドロになるのかと思っていましたが(笑)。

    2010/07/17 05:52

    アキラさま

    私のところにもコメントをいただき恐縮です。感想だけだと、劇の内容がつかみにくく、判断に迷うのですが。アキラさんのレビューは物語の設定や展開が丁寧に書かれていたうえ、前回のモダンスイマーズのとき同様、アキラさん独特の深い解釈が載っていたので、観たくなりました。
    正直、もし、新聞の劇評だけだったら、これほど観ようという気にならなかったかも。見逃さなくてよかったです。感謝します。
    よくある展開だと、最後にみんなが本音をぶつけて爆発するんだけど、このお芝居はそうならないから後味がよかった気がします。自然というか。実生活はお芝居のように、感情の同時大爆発はめったに起こりませんものね。すべてが崩壊してしまうし(笑)。
    冷房対策のウールのショールを常に毛布代わりに携帯してるんですけどね。暑さに弱いくせに極端に冷房にも弱いんですよね。

    2010/07/15 22:46

    きゃるさん

    コメントありがとうございます。

    読んでいただいて、参考にしていただいたとは光栄です。
    日常の中に潜む関係が見えてくるだけでなく、ラストの後味が良かったのが、とても印象的な舞台だったと思います。

    しかし、体調のほうは大変でしたね。私のときはそんな感じはなかったですが、梅雨の時期は、湿度もあるので、館内の気温の維持は大変でしょうね。
    私は、どんなときでも必ず、上着をカバンに入れています。空調のいい会場でも念のために。

    2010/07/15 07:57

    アキラさま

    自分のとっている新聞の劇評より先にアキラさんのレビューが出て、とても惹きこまれ、高得点だったので観る事にしました。チケットが売り切れてなくて幸いでした。ありがとうございます。ステキな作品でした。冷房にやれて、終盤、猛烈な腹痛が襲ってきて辛かったけど(笑)。

    2010/07/15 02:27

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