実演鑑賞
満足度★★★★★
抽象性の高いパフォーマンスが「ハマる」というのはどういう現象なのか自分でもよく分からないが感覚している自分がいるのは事実で実に不思議。
井手氏本人の踊りは初めて。イデビアン・クルーは三度目。身体の動きは心情、感情を伴っており、そこが井手氏の特徴だろうか。ビニルシートを取っ払うと六畳一間の畳部屋の台。周囲は砂利を敷く代わりに白い無機物が敷かれた畔のような筋が、その左右に奥へ向かって伸び、奥では上奥袖から下奥袖まで一本伸びる(上から見ると鳥居のような)。最初、舞台の舞踊エリアの対角線に男女が立ち、目線が合うと、男女の関係だと分かる。カップル同士の営みが時に面白おかしく、時に虚しく、切なく、冷淡だったりノリノリだったりが演じられて行く。
動きのバリエーションは(井手氏っぽい動きというのはあるようだが)多彩と言え、先述した如くそれらは心情・感情のバリエーションを意味する。そして心地よい。
舞踊には楽曲も不可欠だがスタイリッシュ。一曲目のヴィヴァルディの曲が微妙な強弱が少し入ったと思うとエコーが微妙にかかったり、鳴り方が変わったり(ステレオ全開が局所でAMラジオの音、になったり)、空振りパンチ攻撃に合わせて効果音の「空を切る音」を入れ込んだりと忙しく、嬉しい。一曲目は唐突に終わり、突如ベース音がリズムを刻みスローなドラムに、二人の揺らぐ身体が揃う。理屈抜きに相性抜群な瞬間だ。
音楽は5,6曲程だったか。ボレロも流れる。人生のあらゆる場面だったり、想像の世界を遊ぶ時間だったり、どちらかの見る夢だったり・・。
延々と続く二人の風情への既視感は、最後に種明かしがある(その作品を知らなきゃ分からないが)。
1時間と少しと舞踊作品としては平均的だったが、もっと長く、めくるめく時間を過ごした感覚である。