実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/10/04 (水) 15:00
座席1階
大規模災害の被災地にある避難所という高い緊張状態での物語だが、最後は何だかホッとできる展開。人間の心の動きを書かせたら秀逸な横山拓也らしいすてきな台本だった。期待通りの出来栄えだ。
舞台は避難所の集会所のようなテント内。寺十吾演じる、噴火災害で亡くなったとみられる妹を探している男性に、野々村のんが駆け寄って抱きしめる場面から始まる。この女性は、男性が自分の夫だと思い込んでいるのだ。男性は戸惑いながらも「夫」を演じているが、災害地をめぐって思い出の人の似顔絵を描いている画家崩れの男(佃典彦)が正論と冗談を交えながら絡んでくることで、会話劇が動き出す。
関西弁とかみあわない標準語。このあたりのせりふのやり取りも面白いのだが、「夫」を演じていていいのか、本当のことを言うべきではないのかと揺れ動く心に画家の男が鋭い突っ込みを入れてくるところが前半の見どころになろう。
後段のカギを握るのは「歌」だ。この歌の取り扱いも絶妙のうまさ。なるほど、そうなんだなと納得しながら、ハラハラしながら見守っていける。笑いのツボもしっかり押さえている。こう自然に笑いを取れるところはやはりネイティブ関西人ならではのところか。
ユニットを率いる野々村のんの演技も、後段に行くにつれてうまさがほとばしる。心の内を明かしそうで明かさない、明かさないようで少し垣間見える。こんな微妙な表現力が求められる難易度の高い台本を演じきったと言っていい。
被災地という極限状況の舞台設定で、とてもユニークな人間関係。やっぱり横山の本はおもしろい。