実演鑑賞
満足度★★★★
岸田國士戯曲賞なんて日本アカデミー賞程度の業界内政治の権威付けで、紅白出場を肩書きに地方巡業を回る演歌歌手程度の認識だったが。(偏見)。
傑作。これは役者もやり甲斐があるだろう。この脚本にこの演出、役者冥利に尽きる。替えがきかない配役。(実は初演と全員配役を変えているのだが・・・)。演じ手としてこんな作品と巡り会える幸運。川沿いの砂利の上をジャリジャリ歩きながら、ゴボゴボ水中で溺れる音にまみれながら。
シャッフルされた時系列、広島の田舎町にある古い一軒家。従姉妹の家が火事になり従姉妹とその娘が同居することに。絶対的な君主として家に君臨していた父親。父親は川の浅瀬で溺死体で見付かる。葬儀、その一周忌。パラパラと配られたカードの一枚が唐突にめくられて語られるのは断片。
井内ミワクさんはずっと腰を曲げていて、このキツさは相当なもの。心配になる。
大浦千佳さんは田舎のヤンキーからシンママ、水商売と王道を歩む貫禄。登場シーンの両目から順番に流れる一筋の涙が美しい。こんなスナックに通える男は強い。
佐久間麻由さんはさとう珠緒系の美人で巧い。
産婦人科の医師、江藤みなみさんは白のNew Balanceで足を組み、残酷な診断結果をラフに夫婦に告げる。この演出が心憎い。
富岡晃一郎氏はお宮の松っぽいなと思っていたが、ふとした拍子に國村隼の得体の知れぬ表情に変貌。
日常会話の中に雑然と投げ込まれた様々な物語の欠片。皆それぞれ、解決策のない痛みと苦しみに苛まれている。そもそもハナから解決させる気すらないようだ。「この家のもんは皆キチガイやけんね。」どうしようもない現実、どうしようもない自分から目を背けてどうにか今日一日をやり過ごすだけ。何とか今日一日を乗り切る為だけに。
何でも治すという薬などないけどよ あるとして
飲まないさ 無茶のネタも切れた 逃げようがねえや
The ピーズ『手おくれか』