オダマキとフクロウ 公演情報 十七戦地「オダマキとフクロウ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2023/09/23 (土)

    固いネタを味わい深い古民家を改装した一軒家劇場で、
    これまた巧みにかみ砕いて怒涛の台詞で語って吠える。
    一体どんだけ勉強したら哲学と戦争の脚本なんて書けるのだろう?
    ホンの凄さと役者さんの熱量に脱帽。

    ネタバレBOX

    昭和21年の秋、ひとりの哲学者が大学から追放された。
    「誤った哲学で戦争を正当化した」というのがその理由。
    その麻野教授と弟子である哲学科の教授、助教授、講師ら5人が
    教授の自宅に集まり、大学の決定に「抗議」するか「恭順」するか
    話し合うことになった。
    文部省とGHQに抗議すれば自分たちも麻野教授と同罪と見なされる。
    恭順すれば、自分たちは哲学者として間違っていたと認めることになる。
    教授の娘文代も、身を隠している父に伝えるため、と同席する・・・。

    フライヤーに「知の敗戦処理」とあるように、
    戦争犯罪人は軍人だけなのか、教育に携わった者も責任を問われるべきではないか、
    という問いかけが重い。

    「哲学の論理を検証する」という一見無謀な設定をしておいて
    柳井さんの脚本は言葉ひとつひとつを粒立てるように取り上げ、
    そこに新事実を当てはめていく。
    その驚きの事実がすんなり納得できるのは、いつの時代にも通じる
    人の心の普遍性に共感できるからだ。

    麻野教授の裏の顔や、他の教授たちの秘密、世渡り上手な助教授の目論見や
    盲目的に教授の哲学を信じ「腹を切れ」と迫る助教授。
    そして下っ端の講師にも大きな秘密があった。
    次々と明らかになる事実の前に、「哲学」が翻弄され、
    少しずつスライドしていったことが判って来る。

    クールで世渡り上手な、そして腹黒い助教授を演じた北川さん、
    繊細で優しいイメージが強かったが、要領よく押しの強い役がはまって素晴らしい。
    少し貫禄も出てきて、クセが強い人物がますますリアルになった。
    マジで「今さら言ってくれるな」的な、自己満講師の懺悔を聞いたあとで
    文代を演じた藤原さんの間と声のトーンが絶妙だった。
    死ぬの生きるのまで出て来る展開で、役者さんの熱量はハンパない。
    哲学者ってこんなに熱くなるのか、というエネルギーに圧倒される。
    それにしてもあの台詞量、役者さんには酷な脚本であることは間違いない。
    どうやって覚えたんだろう、と小学生のような疑問でいっぱいになった。

    劇中、哲学者ヘーゲルの著書から
    「ミネルヴァのフクロウは黄昏に飛び立つ」という意味の言葉が引用される。
    ローマ神話のミネルヴァは知をつかさどる女神、フクロウは知の象徴だ。
    哲学というものはいつも現実が起こった後で、あとから現れる、という意味らしい。
    一方、オダマキはどんな意味だろうか。
    花言葉を見てみると「断固として勝つ」のほかに「愚か」というのもある。
    教授たちから「愚かな民衆に哲学が解るものか!」と言われた
    その民衆の支持を得られない思想も哲学も、やがて否定され追われていく。
    「オダマキとフクロウ」、なかなか味のあるタイトルだなあ、と勝手に思った。

    人は国に殺され、軍に殺され、思想に殺され、そして嫉妬に殺される。
    令和の時代に、この作品が問うテーマはあまりにも大きい。



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    2023/09/24 01:54

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