リビング・ダイニング・キッチン 公演情報 ウンゲツィーファ「リビング・ダイニング・キッチン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    栗★兎ズというよくわからない名前の時代に一度観て、細ペンで手描きのチラシから予想される現代口語演劇でも、構造のしっかりした動的なドラマを書くな、という印象だった。
    6,7年は経ったか、これもよくわからないユニット名となっての本作も中々演劇的な<中味>は豊富で、アトリエ春風舎を活用した舞台美術(作り込み系)と隠喩的な小道具を媒介しつつの風通しの良いテンポ感ある劇展開。身に詰まされる家族の風景がなぞられている。
    短い上演時間だが濃い時間であった。

    ネタバレBOX

    子育て初期の夫婦の「あるある」が描かれる。夫婦のガチな不満のぶつけ合いが「赤子を大切に思うゆえだなあ」なんて感慨を通り越して修羅場を作っている。そのディテイルがその経験の無い自分には面白い。不眠で朦朧とした夫ないし妻の脳内を再現した奇妙なシーンも挟まる。夫婦二人に、夫の兄が加わる三人芝居。「演劇やってる」ヤクザな兄貴との設定だが(最後は和解っぽくなる)、乳児を頂点とした三角形の濃密空間に現れた「異物」感が際立つのは、既に夫婦だけの濃密な居住空間に自分が漬かっているから。
    演劇をやってる、という彼の現在地は殆ど語られないが、暫く姿を見せなかった不肖の家族である事、病院に居る父に会いに来たらしい事(それに付き合ってくれと言われる)は見えていて、彼にとって節目を迎えたのが演劇の道が順調だからなのか、どうなのか、本当はそこは重要では、と思う所でもあるが、詳らかにはしていない。
    彼は弟の赤子誕生の祝いだと、しわになった祝儀袋で渡す、それを頑なにやんわり拒み、祝儀袋だけ(気持ちだけ)弟は受け取り、3万程入れて後で妻に渡すくだりもある。小さい頃から兄は何でもできる優秀な人で、親からも将来を嘱望されてたのに演劇と出会ってしまった・・厳格な父との家を飛び出す直前のやり取りが回想式に挟まれる。
    ただその兄が夫婦を訪問してややバツが悪い中、ちょっと煙草吸っていい?と言ってベランダに出る。中から恨めし気にそれを見る妻、肉親として兄に慮ってる弟は自分を「何もできない」と自認し、組織に入って身を固めるしかないと考えている風。根底にある謙虚さが子育てでの夫婦のやり取りにも表れているが、真面目さから、またコンプレックスから「働いてる自分」を認めても欲しく、妻の立場を慮り切れない限界を見せる。
    さて兄であるが、赤子を育てている家庭にやってきてわざわざ煙草を吸う所など無神経な人?というレッテルが最初に貼られてしまうのが傷であった。後でイメージを挽回していく逆の伏線かもだが、元々エリートな兄のキャラからは少し離れていた。例えば「これ無害煙草」とかあっても良かった。
    律儀で気の回る弟は、明日は一日中赤子を見る(妻を一日解放してあげる)と妻に約束した直後にも関わらず、兄の事情に寄り添い、妻にも「明日親父の病院に一緒に行かないか」と誘って鎮火した火が再びミシミシ燃え始める、という展開もあり。「兄貴から(もらった)」と祝儀袋を渡された妻は、しばし会話をしてから、「これ貴方が入れたでしょ」と図星を突く。「私これ渡されたよ」と皺になった一万円札一枚を見せる。そんなこんなを経て、外界を持ち込む兄に対し、妻は何をきっかけにか融解し、「だってお兄さんも家族でしょ」と言われる。芝居は泣く赤子に三人がよしよしば~をやるカットで終わるが、自分としては「繋がっている」証を何か残し、最後は夫婦二人だけで終わってほしかったな、と思った。

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    2023/09/17 05:16

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