実演鑑賞
満足度★★★★
1,960年代のパリを舞台にした名画贋作の物語だが、日本製のミュージカルだ。
今世紀に入る頃の有名画家だったアンドレ・デジール(架空の人物)の絶筆を、ひょんなことから偽造することになった腕の立つ画家の卵の青年・エミール(ウエンツ)と、物語を紡いでその画業を助ける友人ジャン(上山竜治)が主人公である。父親(戸井勝海)は怪しげな贋作も扱う画商だが、息子に期待している。二人が手掛ける贋作は半世紀ほど前に事故で亡くなったデジールの作品で現物はは行方知れず、湖の畔の寒村でえがかれたと伝わっている。
ジャンの語る画題の物語を聞きながら、エミールが贋作を作っていく一種の青春バディ物なのだが、設定が複雑すぎる上に架空のお話しなのでとりとめがない。後半はデジールの娘(水夏希)が登場して贋作の謎を解き糾弾され、二人の青年も前非を悔い、デジール最後の作品を完成させていく。エミールがデジーレに乗り移ったような作品の出来に娘も納得する。現在その作品が展示されているエッフェル塔の見える画廊に今は老いたエミールは日参しているが、すでにジャンが亡くなっていたことを知って自首しようと決意する。形式的にはオフのミュージカルの王道の作りであるが、なんだか韓国ミュージカルに感じるような表面的な熟れ方である。
シーンの中ではバディの歌うデユットも悪くないし、二幕の頭にあるエミールの家の暗い過去も戸井がうまいので良いシーンになっている。とってつけたような最後のシーンも悪くない。感心したのは、スライドのマッピング技術で、ほとんど裸舞台に長方形の窓のようなスクリーンの役を果たすスペースがあって、そこに建物も自然も映し出してすべての場面処理をする。物語的な展開なので時間も空間もこれで転換が早くなった。
しかし、何で苦労してこんな空々しいスジに熱を上げるのか解らない。よくできた練習帳のような作品で、主要人物8人でよくまとまってはいるが、練習帳は練習帳である。どうせやるなら、現代の日本を舞台にしっかりリアリティのある作品を見たかった。