ヨーコさん 公演情報 演劇集団円「ヨーコさん」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    絵本作家の佐野洋子の一代記である。佐野洋子の作品はミリオンセラーの「百万回生きたねこ」など、絵本に触れる年代がかみ合わず、その作品は読んでいないが、作者キャラはメディアで知っている。その作品群から角ひろみが音楽劇にした。
    まず、原作を丁寧に読みこんで構成した角の戯曲がよくできている。一言で昭和畸人傳と言えるような中身なのだが、家族劇として普遍的な深みに達している。満州で生まれ、帰国して苦労し、一般的には規格外の父母とのそれぞれの葛藤を抱え、七人兄弟の長女として兄弟の死にも遇い、結婚生活は二度。認知症になった母を看取り、晩年ガンにかかって余命わずか、というところからの回想形式である。音楽に絡んで、踊りや影絵もあるが、ドラマはよくできた困った家族の中の長女モノである。笑ってしまうエピソードもたくさんあるが、それが家族で生きる生の哀歓につながっていく。ぶれていない。往年のよくできた井上ひさし作品のようだ。
    作者の角はたしか神戸の大学演劇の出身で、もう何十年も前に新宿で小さな公演を打ったときに見た記憶がある。中身は忘れてしまったが、今時(小劇場全盛期)ずいぶん素直な作品と思った。その後、結婚して今は岡山在住という。芝居は捨てていなかったのだ。
    今回の本は素材の面白さに支えられているとは言え、流行のねこという飛び道具をしっかり押さえこんで優れた家族劇に仕上げている。岸田戯曲賞を上げてもいい。
    演劇につける音楽は難しいモノで、井上ひさしの宇野誠一郎のように、難しくない、素直に観客の心に入っていくのがいい劇伴だ。今回はナマのリズム楽器を使いながら、作曲は西井夕紀子。曲が独立して踊りもあるナンバーもあるが、これが、出過ぎず、俳優の歌とおどりで収まるように出来ていて秀逸だった。
    主演のヨーコさんには今回就任したという劇団代表の谷川清美。母役の清水透湖は若いが大健闘。周囲もガラにもよくはまっている。当然、再演ということになるだろうが、言いたくない改善点は演出(作者の角)である。さらに踏み込んで今は団子刺しになっているエピソードを大きなダイナミックな流れに作れば劇団の財産になる市、もっと大きな劇場でも上演できる。栗山民也を連れてくるのは無理かも知れないがこの劇団出身の森新太郎なら、もっと面白くなる。劇団の柱になる作品としても期待できる。ほぼ満席。



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    2023/08/28 21:07

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