実演鑑賞
満足度★★★★
夏休みの児童のために多くの劇団や公共劇場(商業劇場も)は興行を打つ。ほとんどが劇団四季の小型版みたいなありきたりのジャリモノで、子供たちにも歓迎されていない。そのなかで、これは、大人も子供も舞台に向き合える、手を抜いていない作品だ。
舞台の中央に白く高い高層マンションが線画で描かれている。周囲の空舞台に小さな一戸建ちの家のミニチュアを持った男女が登場して、始まる。男女はその街の市民で、皆、タワーマンションに期待してそこへ住みたいと思う。願望かなってその最上階に住むことになった二人の女性はそれぞれ同日に男の子と女の子を産む。寓話風だが、この地域(三軒茶屋)で最も高い高層ビルの劇場でやっているので、周囲のごった混ぜ菅が残っている街と相まって、現実感がある。母親は街へ出るのが面倒になって、ジャンクフードを買ってきて貰ってそれを食ってドアから出られないほど太ってしまう。男の子と女の子はお互いに意識するようになる。男の子はクール、女の子は優しい。父親はいつの間にかいなくなっている。年月はたって、高層ビルは次第に古び、黒い鳥たちの巣になる。脇役たちが、棒の先につけた黒い鳥たちを一斉に操作するところなどは、子供たちには迫力があるだろう。中央のタワーが照明かマッピングか解らないが次第に黒ずんでいくところなどうまいものだ。きれいな色の鳥を母の求めで買ってきた娘が、鳥に逃げられ、ビルの廊下を探すところは色を失った生活をくっきり顕わしていて、又、現実につながるところもあってうまい。結末にはタワーは崩れるのだが、そこで画かれていると思っていたタワーが実は段ボールを積んだモノだったことが解る。これは大人にも子供にも大いに意外なスペクタクルになった。
区立劇場らしい高層ビルの住民密着の三代記で、それが、十分大人の話なのだが、子供も一緒に見られるように作ってあるというところが味噌である。ロンドンのNTあたりの翻訳かと思ったら、絵本から白井が脚色演出したという。道理で、うまくこなれている。しばらく見なかったこう言う白井の才がよく出ている。それが証拠に小学校高学年から高校生の下あたりの児童が親と一緒にかなり来ていたが、1時間半、飽きずに見ていた。劇場がダレることはなかった。連れてきた親たちも芝居慣れしている感じである。青山円形を上手に使った白井のことだから、きっとこのタワーの二つの劇場も芸術監督としてうまく使ってくれることになる、と楽しみだ。一階はほぼ満席。