ONE 公演情報 DAZZLE「ONE」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    演劇的な骨太のテーマと構成
    DAZZLEはダンス・ユニットだが、演劇的要素が色濃く、2009年にはシアターグリーンの演劇祭で一般の劇団を抑えてグランプリに輝き、振付・演出家の長谷川達也は2009年度若手演出家コンクールで観客賞・優秀賞を受賞している。その活動もダンスのジャンルにとどまらず、演劇や映像、音楽の世界ともボーダーレスを目指している。
    演劇界の批評家たちからも前作の「花と囮」が高い評価を受けたため、今回は前作以上のものを、と相当意気込んだのが見て取れたが、前作に比べて文字による説明表現が多く、文字情報を追っていてもストーリーがわかりにくかった。
    DAZZLEのメンバーを知っていることを前提にしているようだが、入り組んだストーリーが文字で説明され、役名も変化していくため、誰がどの役かを把握するのも大変で、途中でストーリーを追うことも断念してしまった。ダンサーだという若者たちに囲まれて観たが「観てても意味がよくわかんなかったな」という声が聞こえた。ダンスとはいえかなり演劇に近く、配役も割り振られているのだから、演劇のようにパンフレットに配役や簡単なストーリー説明がほしい。
    「ダンスファン以外の多くの人に観てもらいたい」というなら、初見の人にも理解しやすい工夫が必要では。
    会場もシアターグリーンからより広いあうるすぽっとへ移った。
    もう少し外向きの公演をしてくれたら、チケプレもお願いしたいところだが、いまはまだダンスファンを意識した作りになっているので、演劇ファンにもアピールするにはもう少し時間がかかりそうだ。

    ネタバレBOX

    椅子に置かれた一体の人形。この人形は何もかもかっらぽになってしまった元は人間なのだと仮面を被った男(長谷川達也)が説明する。説明はナレーションでなされる。今回から、初めてナレーションが導入された。
    舞台は近未来。人間のあらゆるパーツの移植が可能になり金で売買されるようになり、人はアイデンティティーを失っていく。そのさまを表現する冒頭の群集場面がすばらしくて惹きつけられ、期待感が膨らむ。
    研究者(長谷川達也)は「世界政府」の命令で貧しい子供たちを移植の実験台にして研究を行っている。なかでも13号(通称イーサン/金田健宏)、44号(同シシ)、36号(同ミロク/宮川一彦)の3人は特に仲良しだった。シシだけが少女で、人形が演じる。
    シシは青いバラの瞳を持つ。ひとつずつ、イーサンとミロクに移植され、彼らの瞳にも青いバラが咲く。他者への移植を続けたシシは記憶も失い、からっぽになってしまう。そして、移植されたはずのシシの記憶も、他者の中では生き残っていなかった。
    研究に疑問と良心の呵責を感じた研究者はミロクを自由の身にするため、研究棟から逃がすことを決意する。ミロクは街に出て研究者が手配した「新聞配り」の仕事につく。ミロクを逃がし、イーサンも逃がそうとしたとき、装置の誤作動が生じて研究棟はパニックに陥る。パニックに乗じてイーサンも逃げ出す。世界には新種ウィルスが蔓延し始めている一方、子供たちを次々と連れ去るハーメルンの暗躍が噂され、新聞記者が動く。
    逃げ出したものの、イーサンは自分だという確たる存在証明ができないため、途方にくれ、やがて世界政府とは隔絶した新しい組織(秘密結社のようなものか?)を作って「宿主」となり、世界政府と対決する。再会したミロクをも憎悪し、心を閉ざすイーサン。
    イーサンたちの組織はウィルスに犯されつつあるらしく、その危険を冒してイーサンに接近したミロクは命を落としてしまう。嘆き悲しむイーサン。
    しかし世界政府にイーサンは制圧され、命を落とす。死後の魂の中では、シシの記憶はイーサンやミロクの中で生き続けていることがアニメーションで暗示される。
    「これで物語りは終わりです。何もこわがることはありません。さぁ、あなたがたも私たちの世界にいらっしゃい」と仮面の男は不気味に手招きする。
    だいたいこのようなあらすじだが、ダンスを観て何とか自分なりにつかんだ内容なので、細部は違っているかもしれないがご容赦を。
    イーサンの組織の黒と青、世界政府の赤、と衣装が色分けされ、ローラーで可動式の金網のパテーションを効果的に使ったスピード感あふれ、流麗でキレのあるダンスはDAZZLEならでは。私はダンステクニックのことはまったく無知であるものの、前作でも気になったのだが、顔の周囲で手を回す振りが多いのは、こういうダンスでは一般的なことなのだろうか。この振りの繰り返しが多いと、ときどき単調に感じてしまう。
    現代遺伝子研究の象徴とされる青いバラをモチーフにし、貧困国の子供たちの臓器売買など臓器移植の道義的な問題や、閉塞的な社会状況の中、アイデンティティーや行き場を失った若者たちの内面的葛藤などを風刺的に描き、演劇としてもじゅうぶん成立する骨太の脚本(飯塚浩一郎)は高く評価できる。
    コミュニケーションの喪失、引きこもり、介護の問題を扱った前作に続き、情緒や抽象に流れることなく、社会に積極的に発信していくダンスは門外漢の私にもじゅうぶん魅力的で説得力を持って迫ってきた。これからも挑戦し続けて領域を広げてほしいと思う。
    アフタートークも前作のときに比べ、今回は内容に踏み込んだ発言がなく、メンバー各自の「気に入ってる場面」を述べるにとどまったのは、アイドルグループのトークショーもどきで残念。もっとファン以外の外向きを心がけてほしい。
    お名前を出して恐縮だが、こういう演劇の賞ももらっているダンスユニットの公演はダンス好きなtetorapackさんのようなかたにぜひ観ていただきたいと思うが、若い男性ばかりのグループじゃダメでしょうか?(笑)
    tetorapackさんは観劇リストでは女性ダンサーの公演を多く観ていらっしゃるようなので対象外なのかとは思いますが、一見の価値はあるので今後お勧めしたいです。

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    2010/06/11 13:38

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  • tetrapackさま

    ありがとうございます

    いまのところ年1回しか本公演をやらないユニットですが、tetoraさまのご批評をぜひうかがいたいのでよろしくお願いいたします。

    2010/06/16 02:54

    きゃるさん

     わざわざダンス好きと私の名前を出して下さり、光栄です。

    >こういう演劇の賞ももらっているダンスユニットの公演はダンス好きなtetorapackさんのようなかたにぜひ観ていただきたいと思うが、若い男性ばかりのグループじゃダメでしょうか?(笑)

     そんなことないです。男性のソロもユニットも観てます。あっ、ただ、ダンス公演の場合、このCoRichに登録されていない公演も多くて、なかには私が登録するのもあるんですが、忙しかったり、他の「観てきた!」レビューが溜まったりしちゃうと、面倒になって、レビューしない時もままあるんです。

    >tetorapackさんは観劇リストでは女性ダンサーの公演を多く観ていらっしゃるようなので対象外なのかとは思いますが、一見の価値はあるので今後お勧めしたいです。

     とはいえ、きゃるさんの分析には脱帽ですが、はい、正直言って、女性ダンサーの公演の方が格段に多いのは事実ですね。10対1くらいだと思います(笑)。

     でもって、DAZZLE。きゃるさんの詳細なレビューを読んで、はい、インプットいたしました。かなり演劇的な色彩が強いのですね。演劇的な色彩が強いダンスは大好きです。チャンスがあれば、ぜひ観てみようと思います。ありがとうございました。
     

    2010/06/16 00:40

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