露出狂 公演情報 柿喰う客「露出狂」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    演劇マシンたちのまばゆい疾走
     某女子高サッカー部のあられもない痴態と猛スピードの栄枯盛衰。マシンガンのように打ち込まれる膨大なセリフで約100分を一気に駆け抜けます。

     サル山をイメージしたという美術は“お山の大将”“猿真似”といった文字通りの意味も連想させますが、私にはバベルの塔にも見えました。サッカー部の荒くれ女子部員たちが、高みを目指すが地に落ちることを繰り返し、それでもまた上を見上げ続ける人類をあらわしているとも受け取れました。
     そして「高天原女子高校」という名前もいいですね!高天原といえば日本神話ですが、ギリシア神話の神々の戯れや死闘とも重なりました。※高天原は中屋敷さんの脚本によく登場します。

     ラストシーンはさておき、よく計算された脚本だったと思います。登場人物の名前を連呼することで、14人の女子高生の顔と名前が素早く一致して、難なくストーリーについていけるようになります。名づけ(役名やキャッチコピーなど)のセンスも冴えており、鮮やかなひとことで役を輝かせました。
     ある脚本・演出家がおっしゃっていたのですが、本来ならト書きになるような情報が、全てセリフの中に書きこまれているのも中屋敷さんの脚本の特徴です。「誰が、何をして、どうなった」とはっきりセリフで説明してしまうのですが、それが単調な言葉の羅列で終わらず、ぐっと空間の厚みを増すように演出されているのが素晴らしいです。

     演技(発声)方法は好みが分かれるところかと思いますが、私は俳優の身体を、今作については女性らしさをあからさまに利用していることに、潔さというか、プロ意識を感じます。
     女優たちはある型に沿った、いわば振付どおりに動き語ります(そのように見えます)。決まった形と言えど切り替えが頻繁かつ早いので、なぞるだけでも難易度が高いです。体の動きだけでなく感情の揺れも小刻みですから、体と一緒に気持ちもパキパキとコントロールする必要があります。それらの技をこなしつつ、出演者全員がそれぞれの持ち味を発揮するという贅沢を味わえました。

     劇団員の3人をはじめ客演常連の方々のいつもながらの凄味と安定感が嬉しく、初出演(だと思われる)の方の今まで気づけなかった魅力も発見できました(例えば劇団競泳水着の細野今日子さん)。
     中でも「ブス」と言われ続けるウツボ役の七味まゆ味さんにはノックアウトされました。ウツボの人物紹介は「大胆不敵なサッカーサイボーグ!」でしたが、七味さんは演技サイボーグですね!

     制作面では1週間以上の公演を盛り上げるための工夫がいいですね。終演後に色んなイベントがあり、チケット価格もそれに合わせて数種類あります。物販コーナーも充実していました。
     全配役をシャッフルする「乱痴気」ステージは今や柿喰う客ではおなじみのイベントですが、2通りの稽古をしているのは単純に考えても大変でしょうし、観客へのサービスという面だけでなく、俳優養成の意味でも大いに役立っているのではないかと思います。

    ネタバレBOX

     1期生、2期生、3期生それぞれのサッカーに賭けた青春を描き、最後は1期生のヒル(深谷由梨香)が舞台上に残ります。乱交でチームワークを保っていた同級生4人が卒業してバラバラになり、ヒルが悲しくたたずんでいると、ゴキ(熊川ふみ)が現れます。そこでなぜかサッカー部に入部する3年前の春へと場面転換。「これが終わりの場面ですよ」ということはわかりましたが、なぜその場面で終わることを選んだのか、すっきりと腑に落ちませんでした。
     回想シーンだと素直に受けとめると、「そして人はまた愚行を繰り返す」といった印象を与えるいわゆるリプライズの効果や、もしかしたら「すべてはヒルの空想だった」という夢落ち・・・などと色んな可能性を考えられたのは面白かったです。

     中屋敷さんの作品を観終わった時にいつも私の心に残るのは「中屋敷さんってなんて凄い人なんだろう!・・・でももっとできるはず」という不完全燃焼な後味。それは今回も同じでした。一観客のわがままにすぎませんが、いつか「とうとう100%以上のものをつぎ込んでしまった・・・!」「振りきれて一周回って帰って来て、また遠くに飛んで行っちゃった!」ぐらいの(笑)、とんでもない問題作を書いてくださることを期待します。

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    2010/06/08 15:57

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