麦の穂の揺れる穂先に 公演情報 文学座「麦の穂の揺れる穂先に」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    悪くはないが、大満足でもない
    演出家の戌井さんは劇団新派の伝説の名女形喜多村緑郎を父に持ち、日本演劇界の至宝といえる人。その戌井さんが「これからは平田オリザ作品1本で行きたい」と言うほど惚れ込んでおられるそうで、平田オリザさんは作家冥利に尽きるのではないだろうか。
    NHKに残されていたレコード音源や舞台スチールでしか喜多村緑郎を知らない自分にとって、昭和のころ、そのご子息が戌井さんだと知ったのは大いなる驚きであった。戌井さんは近年、俳優として舞台にも立ったが、声も台詞回しもお父さん譲りで驚いた。演出面では、小津安二郎よりも女形出身で繊細な演技指導が巧かった衣笠貞之助のタイプに近いかもしれない。
    実は杉村春子が亡くなって以来、私は若手の公演以外では、文学座の本公演を観ていない。恐る恐る杉村のいない初の本公演の劇評を読んだとき、自分の予想していた内容だったからで、
    「杉村の影を演じてきた俳優の中から光を演じる俳優を出すのは至難の業」みたいなことが書いてあった。
    会場は定年以降の高齢者であふれ、能楽堂の客層とそっくり重なる。改めて戦後の文学座を支えてきたのは、ここにいるファン層なのだと思った。
    「どうか、僕の大好きな平田さんのお芝居をみなさんも好きになってください」とアフタートークでも頭を下げる戌井さん。「青年団って知らないわ」「平田オリザさんって若い人に人気あるんでしょ」ロビーでかわされる会話に、これまでの文学座ファンとこの作家との距離を感じた。
    ちょうど90年代初めころ、若い人の間で海外からの逆輸入のようなかたちで小津映画の回顧ブームが起こっていたころ、自分は平田オリザという青年劇作家の存在を知った。
    戌井さんは平田氏の「聴く芝居」に惹かれたそうだ。小津監督も青年団も言葉=日本語を大切に、同じテスト演技(芝居では稽古)を繰り返すという点においては、共通点があるようだ。
    さて、そのオマージュ作品をどう感じたかというと「悪くはない」と思った。双方のファンを失望させてはいない秀作ではないかと思う。だが、何か物足りない。
    個人的に自分はオマージュ作品というかたちが映画、舞台、文学いずれにおいても、あまり好きではない。だから、かつて鴻上尚史の「芝居でも○○へのオマージュって作品創るけど、自分も含めて、オマージュって聞こえはいいけどパクリ感が否めないんだよね。はたしてオマージュたりえてるのかって疑問やうしろめたさは残る」という談話を聞いたとき、妙に共感したのだ。
    先日、新派が山田洋次と組んで小津の「麥秋」を舞台化したが、平田オリザには、今後、むしろ、新派の新作を書いてほしいと思った。
    それはオマージュなどではなく、かつての中野実原作にあったような新しい時代の作品で、戌井さんに演出してもらったらよいのではないだろうか。
    杉村春子と平田オリザを出会わせてみたかった気がする。小津を知る彼女なら、どんな芝居をしただろうか。
    劇中、小津が愛した鎌倉の風景を映像で映し出したり、江ノ電の踏み切りの効果音を入れたり、地名や名物の「甘納豆」などを出しているが、私には何か接木のような人工的な色づけに感じられてならなかった。

    ネタバレBOX

    社会進出が進み、家制度からも解放されて自由な選択ができるようになっても、未婚の女性の身辺、家族のやきもきは変わらないのではないか、という視点で平田オリザはこの作品を書いていったそうだ。
    「お父さんは私がいないと何にもできない人なの」と思い込んでいる早紀子(栗田桃子)と娘の結婚を心配する大学教授の父親誠二(江守徹)。早紀子が幼いころに母親は亡くなり、誠二の姉、久子(藤堂陽子)の夫健一(金内喜久夫)の妹に当たる真理子(倉野章子)に助けられながら、誠二は男手一つで早紀子を育てた。ここがちょっと不自然で、真理子が助けるとはいえ、家に入り込んだわけではなく、離れたところに住んでいて「時々、私が手伝った」と言っている。それなら、こんなに何もできない父親ができあがるものだろうか。昔は少しは料理をやった、実はけっこう得意なんて姉の話も出てくるが、父親というのはいったん家事をやるとけっこうマメになってしまい、何にもしなくなるということは経験上少ない。よほど娘に甘えているらしい。
    この真理子が再び家に出入りし始め、早紀子が微妙な雰囲気を感じ始めたとき、「パラサイトシングル」をめぐって誠二と口論になり、そのあと、誠二の友人の大学教授夫人た多香子(山本道子)の勧めに乗って助教(助手)日高(大場泰正)と電撃婚約する。日高も妻を亡くしており、まだ幼い娘がいる。インドネシアに研究留学しないかという話が持ち上がるが、娘のことを考えて躊躇していた。早紀子の同行により、娘も一緒にインドネシアに連れて行けることになる。もともと、日高と早紀子は周囲が結婚すると見ていたのだが結ばれなかったという設定。双方、憎からず思っていたからこそ、急に婚約できたのだとは思うが「結婚には勢いが必要だってお父さんも言ってたじゃない」という早紀子の言葉が唐突に感じる。早紀子の結婚に至る心理の綾が描かれず、口論の直後にいきなり婚約するので感動も薄い。日高と早紀子との会話でもサバサバしていて異性への好意は表現されていない。私のこの芝居の不満は人物設定と状況説明と観客の想像に頼り過ぎている点にある。「小津映画を観ていればわかるだろう」みたいなところもある。
    真理子と早紀子の会話も、倉野がアフタートークで語っていたように「真理子はかつて早紀子ちゃんにどこかでシャットアウトされたためにお母さんにはなれなかった女」と抵抗感のあった娘というふうには感じず、わだかまりなく仲良しにしか見えない。
    誠二が早紀子が早く嫁に行けるよう、真理子さんとわざといい雰囲気を作ってみせたのだ、みたいなことを言うが、それも芝居では表現されていないので「?」となってしまう。早紀子、日高、誠二、真理子の心の綾をもう少し丁寧に表現しないとドラマとしての感動は薄い。アイルランド映画の薀蓄の部分をもう少し削っても、こちらを描いてほしかった。
    正直言って、小津安二郎のホームドラマも「東京暮色」を除くと情緒重視でそのへんは役者に頼ってしまい、けっこうあいまいなのだが(笑)。現に小津のお気に入りの助監督と言われた巨匠今村昌平でさえ「茶碗がどうのとかディテールにこだわって、肝心の人間描写が感心しなかった」とズバリ批判している。一時期、邦画界で小津映画の評価がさほど高くなく、死後、海外で賞賛されるまで半ば忘れられていた理由もそのへんにあるような気がする。
    小津映画を素晴らしくていたのは、やはり文学座の杉村春子の存在が大きかった。彼女のユーモラスで自然な演技が際立っていたのだ。そして小津の共同執筆者・野田高梧。野田が東宝に書きおろした家族映画も小津作品そっくりで、むしろ松竹より出来はよく、ここでも杉村春子が光っていた。
    姉の久子の藤堂陽子に杉村を感じると言う声があったが、これは役どころが杉村の役だからで、深みはまるで違う。戌井市郎は、ふだんはさほどうるさく言わないセリフも、平田作品については厳しく一字一句台本どおりに言わせたそうで、大場、栗田や誠二の教え子たちを演じる若い俳優は、青年団にいても不思議はない自然な会話に感じ、やりやすいのかと思ったが、自然に見せるのが実はものすごく難しかったと言う。江守も語感がとても難しかったと言っている。平田オリザらしさを感じたのは、誠二の友人の大学教授・向井(坂口芳貞)にまつわるサナダムシ談義あたりだろうか。誠二の部下の矢野(高橋耕次郎)の役も青年団の芝居ならもっと活躍したはず。そのへん、俳優の序列が関係するのだろうか。
    江守徹の台詞回しが加藤武に酷似していて、江守もそういう年代になったのかと感慨深い。「実年齢と同じ役は初めて」と苦笑する倉野章子も同様で、私には知性派ホープと言われた娘役の印象が強い。
    大場は魅力的な俳優だし、栗田桃子は最近余裕すら感じさせる。成長株の二人だ。
    細かい点では夏の結婚式(8月くらいだろうか)なのに、久子は合いものの透けない一重の黒留袖だが、多香子は袷の色留袖で、ともに冬の袋帯という衣装がひっかかった。着物は絽か絽縮緬、帯も絽綴れかせいぜい絽刺しといったところでは?。

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    2010/06/07 22:16

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  • きゃる様 tetorapack様

    何だか、知らない内に、自分のことが話題になっていてビックリ。お恥ずかしい限りです。
    きゃるさん、私、学内で、そんな有名人じゃありませんでしたよ。きゃるさんがそんな風におっしゃると、知らない方が、それはコリッチで言えば、みささんみたいな有名人かと誤解されちゃいそうですよ。(笑)学内では、中島梓(栗本薫)さんとかは、高校時代から超有名人でしたね。
    私なんて、ほとんど誰にも知られていなかったですよ。きゃるさんは、たまたま父の劇評を愛読してくださっていたから、認知して下さっていただけですよ、きっと。

    青年団、私も、役者さんは結構、大好きな方が多いです。いろいろな芝居に客演されている未知の役者さんで、これは誰?どういう出身?と興味を持つのは、圧倒的に、青年団の方が多いですね。皆さん、変に個性的じゃなくて、市井のどこにでもいそうな人物をリアルに好演されるので、いつも感心しています。

    きゃるさんのレビューを読んで、私は、何故、小津映画をあまり観たいと思えなかったかがわかったような気がしました。自分の知られざる部分に気付かせて下さったきゃるさんに感謝!!
    そして、私も、きゃるさん同様、この芝居のtetorapackさん評、是非拝読したく思いました。
    きっとテレビでやるのではと思うので、その時はご覧になって、御意見伺わせて下さいね。

    2010/06/16 13:39

    tetorapackさま

    恐縮です。今回のKAEさまのお答えにはただただ感謝です。浅学の私としてはいつも非常に勉強させていただいております。KAEさまはプロフィール文からもしや母校の後輩ではと気づいたのですが、学内でも有名人だったので、もちろん私が一方的に知っているだけだったんですけどね。いや、40年ぶりにネット上で再会し、こういうお話ができるなんて夢のようです。
    そして、tetoraさまの文学座・青年団解説もありがたく拝読させていただきました。私の予想ではtetoraさまなら本作☆4つ以下は考えにくいですね 笑。それだけにレビューを拝読したかったです。再演の際に期待です。

    2010/06/16 03:46

    きゃるさん、KAEさん

     いやー、凄い。凄すぎる。CoRich上で、こんな「劇評」対話を繰り広げられるのは、絶対にお二人以外考えられない。謹んで、いや、ほんとは楽しく(笑)、感嘆しながら、読ませていただきました。途中、私なんぞのことまで触れて頂いて、恐縮です。

     さて、きゃるさんの本体レビューから。

     この作品、私も観ようかどうか、相当悩みましたが、悩んでいるうちに、他の作品でスケジュールが埋まってしまいました。というか、空き日も設けているのですが、仕事が強烈に忙しい時期でしたので、断念しました。でもって、きゃるさんのレビューを読んで、私としてはKAEさんとは逆に、余計に観た方がよかった、そして、どう感じたかをレビューしたかった、と思っちゃいました。

    >戌井さんが「これからは平田オリザ作品1本で行きたい」と言うほど惚れ込んでおられるそうで、平田オリザさんは作家冥利に尽きるのではないだろうか。

     そうでしょうね。戌井さんにそう言ってもらえるなんて、オリザさんも身ぶるいしちゃうでしょうね。

    >「どうか、僕の大好きな平田さんのお芝居をみなさんも好きになってください」とアフタートークでも頭を下げる戌井さん。「青年団って知らないわ」「平田オリザさんって若い人に人気あるんでしょ」ロビーでかわされる会話に、これまでの文学座ファンとこの作家との距離を感じた。

     ここ、すごく「なるほどなー」と思っちゃいました。ざっくりした言い方で済みませんが、文学座はやっぱり上手い。青年団も今の小劇場系演劇を引っ張るリーディングカンパニーと言えるでしょう。ただ、私も文学座公演は作品によって、大酷評をCoRichで書いたこともありますし、大絶賛したこともあります。演出部だけで相当数の人数がいる文学座ですし、青年団の演出家も出身組やリンクも含めると、私が知っているだけでも、やはり多数に上ります。作風が合わない、演出手法が合わない、などなど、ケースバイケースで私も感じているこの頃です。でも、文学座も青年団も私は好きです。好きなだけに、頭にくるほど、気に入らない芝居もあります。

    >戌井さんは平田氏の「聴く芝居」に惹かれたそうだ。小津監督も青年団も言葉=日本語を大切に、同じテスト演技(芝居では稽古)を繰り返すという点においては、共通点があるようだ。

     一番、印象に残り、大いに参考になったのは、ここでした。特に青年団の気に入った公演で感じるのは、まさにここだったんだ、と今更ながらに考えが自分の中で纏まってきた感じがして、きゃるさんのレビューに感謝いたします。大田省吾も岸田理生も好きですが、やっぱり日本語を大切にして、口語演劇の中でも日本語が活きていることが、心に沁みるんだなって。もちろん役者の技量は必要条件ですが、それだけで十分条件たり得ない。両者のシナジー(相乗効果)によって、必要十分条件として整うんだなって、改めて感じた次第です。これ、まじめに思っています。

    >個人的に自分はオマージュ作品というかたちが映画、舞台、文学いずれにおいても、あまり好きではない。だから、かつて鴻上尚史の「芝居でも○○へのオマージュって作品創るけど、自分も含めて、オマージュって聞こえはいいけどパクリ感が否めないんだよね。はたしてオマージュたりえてるのかって疑問やうしろめたさは残る」という談話を聞いたとき、妙に共感したのだ。

     うん、きゃるさんの日ごろのレビューを読んでいると、かなり、きゃるさんの中で、そうした感覚が核になっているという感じはしますね。もちろん、それがどうのこうのという意味ではありません。というか、そういう核を持っているからこそ、透徹した目で見れるのだと思います。私もそう成長していかないと、なんて、いい歳して思っちゃいます。

    >杉村春子と平田オリザを出会わせてみたかった気がする。小津を知る彼女なら、どんな芝居をしただろうか。

     そんな発想、きゃるさんじゃないと浮かばない。でも、私も飛び着いて観てみたい! 小津さん、杉村さんについての記述、ただただ感服して読ませてもらいました。

    >私のこの芝居の不満は人物設定と状況説明と観客の想像に頼り過ぎている点にある。「小津映画を観ていればわかるだろう」みたいなところもある。

     なるほど、レビュー読んでて、そんな感じを感じちゃいました。

    >大場は魅力的な俳優だし、栗田桃子は最近余裕すら感じさせる。成長株の二人だ。

     そうでしょ。アトリエ公演の「犀」を観て大場君に魅せられ、てがみ座の公演でも大場君が光っていた。あっ、大場君と、てがみ座の長田さんは共に早稲田の劇研仲間なんですよ。
     栗田桃子さんも上手いですよね。

                 * * *

     さてさて、お二人の劇評対談から。

    >悪くはないけど、文学座、青年団、小津作品、全部知ってて好きな人にとっては何かね、満足できないんじゃないかと思うのです。
    >一方、青年団ファンらしき若い人は「文学座だからか古臭いね」と言ってた。

     この個所を読んで、実は私としては、うー、これは私も見るべきだった、と後悔したのです。観て、自分がどう感じたかを書きたかった。まあ、後の祭りですが(笑)。
     ただ、気になるのは、私、たしかに青年団が好きなのですが、青年団ファンの若い人を見ている(観察しているわけではありませんが、若い人のCoRich評などを読んでいて)と、あれれ、こんな感じ方で褒めているの? なんて、同じ高評価でも、私とは好印象を得た感覚がまったく違うことや、逆に私はさほど心に響かなかった公演を若い人が絶賛したりしていることによく驚かされるのが青年団公演なんです。

     さりとて、やっぱり青年団は役者さんが上手いし、基本ができているし、みな個性と言うか持ち味をもっている。青☆組などのリンク公演でも、いかんなく実力を発揮し、楽しませてくれる。これは私としては信頼しています。やっぱり私の中での好き嫌いは演出が大きなウエイトを占めていると思います。

    >平田さんは文学座より新派で冒険してほしいです。昔、新派は「明日の幸福」とか新作やってたようにオリザ作品を導入してみては、と思います。テンポが出てよいかもしれない、かと。

     うん、これは、面白いかも。私も一票投じます。

    >青年団はですね。正直言うと、食わず嫌いな部分が多く、実はそんなには観ていません。
    >すごく自然に見える登場人物が、実は、如何にも作り物っぽいというのが、私のオリザさん観です。でも、青年団の役者さん自体は、皆さん、自然な演技がお上手な方が多く、指導者としてのオリザさんには大変敬服しています。

     私は、あくまで自分が観たオリザさんの作品でのことですが、やはり、合う、合わないは結構あります。心に沁みる、沁みないという点では、心に「響く」ことはあってもあまり心に「沁みる」ような作風には感じられません。でも、役者さんの演技には、正直、引き込まれますね。
     してみると、私の場合、正確に言うと、青年団ファンというより、青年団役者ファンと言った方がいいのかもしれません。あっ、でも、くどいですが、合う作品も少なくありませんよ。

     最後に、改めて、お二人のネット上対談に敬意を表します。

    2010/06/16 02:08

    KAEさま

    大変丁寧なお答えをいただき、感謝感激です。ありがとうございました。

    >戯曲セミナーで、オリザさんの講義を受けて、どうもこの方の作劇姿勢には納得行かないと痛感しました。
    課題で、見せられた芝居も、一見良くできているようですが、腑に落ちない部分が多く、質問したら、「あれは、面白いから、そういう設定にした」とか、「主人公の台詞が本当か嘘か、観客が予想する答えが半々になるように、曖昧な演技を役者に要求した」とか、私の演劇理念とはかけ離れたことをおっしゃるので、余計、オリザさんの書くお芝居はあまり観たくない気持ちが強くなりました。すごく自然に見える登場人物が、実は、如何にも作り物っぽいというのが、私のオリザさん観です。

    ここの部分、すごく興味深かったです。なるほどと思い当たる部分も多く、また以前のCoRichでもこれに似た感想を書いておられたかたがいて、あれはそういう意味かと理解できました。
    「すごく自然に見える登場人物が、実は、如何にも作り物っぽい」というのは小津映画にも感じることで、人間の臓腑に手を突っ込むような作品が多い今村昌平監督が嫌う部分もそこなのかな、と思います。そういう意味では、戌井さんが小津作品を平田さんに希望したのは腑に落ちますね。

    >でも、青年団の役者さん自体は、皆さん、自然な演技がお上手な方が多く、指導者としてのオリザさんには大変敬服しています。

    何度かCoRichにも書きましたが、私の同僚が平田オリザの友人で、頼まれて新人のころの彼の仕事を雑誌で紹介したのですが、その同僚も当時「彼の芝居は作為的なところがあるのでそこが嫌いな人もいると思うの。でも、これから活躍するんじゃないかな。彼は実は指導者のほうが向いてると私は思う」と言ってました。彼女は善人会議の横内さんとも旗揚げ当時からの知り合いで親しかった。

    >青年団系の劇団や団体でも、オリザさんの教えの良い点は取り入れ、その上で、自分のカラーをきちんと出しているところは、好きな場合もあります。ですが、師匠の物真似に過ぎず、中身がない芝居をやっている劇団は、もう2度と観ないと決めています。

    なるほど、厳しいお言葉ですね。わかります。

    >私は、どんなジャンルの演劇であれ、きちんと、人間が描かれている作品が好きなものですから、作者の御都合主義だけの芝居は、心底毛嫌いしてしまうタイプなんです。

    筋が通ったご意見ですね。

    江守さんもいまはご病気の後遺症なのか、ふだんの会話は多少お言葉が不自由のようにお見受けします。それが舞台になるとまったくふつうですから、感じ入ります。
    もともと早口なかただったので、今回、若き日のハムレットの立て板に水の台詞回しが絶賛された当時を思い浮かべ、歳月を感じてしまいました。余談ですがネットの世界では彼が先代幸四郎の庶子と信じて主張してる人がけっこういます。先々代の松緑さんも「兄貴の場合、結婚前はお盛んだったからどこに子供がいるかわからないからね」と冗談を言われてましたしね(笑)。噂は論外として、似ていると言うのはわかるような気がする(笑)。亡くなった母がテレビで初めて若いころの江守さんを観たときも、台詞回しが似てるって言ってました。だから「アマデウス」は面白かった。現幸四郎さんともふとした「間」が似てるので(笑)。

    「文学座」に関しては浦島太郎状態で。
    個性的でクセのある女優ではあったけど、杉村春子さんには惹かれました。モノマネでない個性を持った女優さんで、いまでも猛烈に彼女を見たくなることがあって、スクリーンで観たいので映画館の名画特集をよく観にいきます。
    子供のころ、芸術祭参加ドラマだったと思いますが、アル中の女を演じ、酒屋夫婦が彼女を更正させようとするが結局更正できずに泥沼にはまっていく演技に度肝を抜かれ、「こうやってオタクの前を通るからもう大丈夫よ」と、着物の袖で鼻を押さえた表情をいまでも憶えています。私の場合、KAEさまのお家のように脚本記録もないので、すべてうろおぼえなんですけどね(笑)。ずいぶん昔に生前の小林千登勢さんと雑談したとき、TV初期の彼女の出演作の話をして、内容は合っていた様で「よく憶えてますね。観てたの?そんなにお若いのに?」と言われました。KAEさまほど記憶力はよくないですが。ここ20年くらいの記憶は自信ない。つい1年前でもダメになってきました(笑)。お恥ずかしいですが。
    ちなみに、小津映画って同じ顔ぶれが多く、それぞれ少しずつ設定が似てるせいか、たくさん観ると混乱してきます。既に観ているものでも、観たかどうかわからなくなります(笑)。

    2010/06/11 13:43

    青年団はですね。正直言うと、食わず嫌いな部分が多く、実はそんなには観ていません。ですが、戯曲セミナーで、オリザさんの講義を受けて、どうもこの方の作劇姿勢には納得行かないと痛感しました。
    課題で、見せられた芝居も、一見良くできているようですが、腑に落ちない部分が多く、質問したら、「あれは、面白いから、そういう設定にした」とか、「主人公の台詞が本当か嘘か、観客が予想する答えが半々になるように、曖昧な演技を役者に要求した」とか、私の演劇理念とはかけ離れたことをおっしゃるので、余計、オリザさんの書くお芝居はあまり観たくない気持ちが強くなりました。すごく自然に見える登場人物が、実は、如何にも作り物っぽいというのが、私のオリザさん観です。
    でも、青年団の役者さん自体は、皆さん、自然な演技がお上手な方が多く、指導者としてのオリザさんには大変敬服しています。

    青年団系の劇団や団体でも、オリザさんの教えの良い点は取り入れ、その上で、自分のカラーをきちんと出しているところは、好きな場合もあります。ですが、師匠の物真似に過ぎず、中身がない芝居をやっている劇団は、もう2度と観ないと決めています。
    私は、どんなジャンルの演劇であれ、きちんと、人間が描かれている作品が好きなものですから、作者の御都合主義だけの芝居は、心底毛嫌いしてしまうタイプなんです。

    ただ、やはり、講義の時、文学座でやったオリザさんの作品を拝見したことがあり、これは今井朋彦さんの演技が絶妙で、大変面白かったので、文学座のオリザ劇にはちょっと興味は持ちました。
    ですが、江守さんの演技もあまり好みではないので、やはり、迷った挙句、やめてしまったのでした。

    2010/06/11 02:04

    KAEさま

    >最近まで、どうしようかと迷っていましたが、やはり、行かなくて正解だったかもしれません。

    でしょう?(笑)。悪くはないけど、文学座、青年団、小津作品、全部知ってて好きな人にとっては何かね、満足できないんじゃないかと思うのです。
    たぶん、KAEさんもごらんになったらスッキリできなかったのでは?
    「アバタもエクボ」で文学座と平田さんのことは絶対けなさない、という人は別だけど。
    戌井さんの惚れ込みが勝ちすぎてるような感あり。
    「財産にして再演を重ねる」とおっしゃってましたが。
    60代以上の年配の観客はなんかシラーッとしてましたね。
    一方、青年団ファンらしき若い人は「文学座だからか古臭いね」と言ってた。
    tetorapackさんはごらんにならなかったのかしら。
    感想をうかがいたいところですが(笑)。
    KAEさんのオリザ観も一度うかがいたいんですよ。青年団の芝居があまりお好きでないと書いていらしたので。どんなふうなところがお好きでないのかなーと興味深いんです。
    私は青年団は好きですが、信者ではないので、うかがいたい!
    レビューにも書きましたが、平田さんは文学座より新派で冒険してほしいです。
    昔、新派は「明日の幸福」とか新作やってたようにオリザ作品を導入してみては、と思います。
    テンポが出てよいかもしれない、かと。


    >そうそう、余談ですが、きゃるさんは、「富士見町アパートメント」はご覧になりませんでしたか?
    特に、Bプログラムが秀逸でしたが、今月11日に、NHK教育テレビで、放送するようです。お気が向かれましたら、是非是非ご覧になってみて下さい。

    「富士見町アパートメント」見たかったんですよ。でも日程調整がつかず、考えついたときは売り切れてました。ありがとうございます。TV観ますね!

    2010/06/10 21:36

    きゃるさんのこのレビューを拝読し、何となく予想が付きました。
    最近まで、どうしようかと迷っていましたが、やはり、行かなくて正解だったかもしれません。

    そうそう、余談ですが、きゃるさんは、「富士見町アパートメント」はご覧になりませんでしたか?
    特に、Bプログラムが秀逸でしたが、今月11日に、NHK教育テレビで、放送するようです。お気が向かれましたら、是非是非ご覧になってみて下さい。

    2010/06/09 23:22

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