実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/07/16 (日) 15:00
私は今回、韓国新人劇作家シリーズという、韓国の新人劇作家の作品を日本人の俳優と韓国人の俳優を使って上演するという試みで、それを観るのは初めてだった。
しかし私が観た回は、全員日本人の俳優で韓国の新人劇作家作品を演じたので、正直そんなに期待はしていなかったが、結果的には非常に楽しむことができた。
Aの『罠』(韓国日報 新春文芸戯曲賞受賞)では、閉店時間の近づいたデジタルカメラ販売店を舞台に、消費者及び善良な市民としての権利を強引に主張し、まるで正論を言っているようでいて、時々屁理屈を捏ね、なんかしら理由を付けては店を出ようとしない、かなり厄介な客、その酷いわがままに手を焼く販売員の女性、そして店長、さらには地元の警察官までをも巻き込み、段々事が大きくなり、よくある日常の風景の延長線上から、もはやお客の側の主張、店側の主張、どちらが正しいかとかはどうでも良くなってきて、物事がどんどんエスカレートしていき、不条理な展開になるにつけ、そのブラックで過激で、スラップスティックでもあるコメディに大いに笑った。
しかし、最後にお客が不敵に笑って劇が終わるに至って、どこか他人事ではないような気になってき、また、お客の心の底が読めない終わりかたに、背筋が凍りつき、冷や汗が出た。
Dの『名誉かもしれない、退職』(慶尚日報新春文芸戯曲部門受賞)では、カフェが舞台で、同じ会社だが、年齢も立場も違う3人が互いに相手に探りを入れつつ、時々一人を味方につけつつ、退職を押し付け合う、エゴイズムが表面化し、醜く露骨な、感情が激しくぶつかり合う、修羅場と化していく光景に、人間味を感じ、そんなに他人事とも言えないと感じ、大いに笑いつつ、観劇後は、すーと寒くなった。