海戦2023 公演情報 理性的な変人たち「海戦2023」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    珍しい企画の上演なので、梅雨の合間の炎天下、西武池袋線に乗って富士見台のビル地下室まで出かけた。異色の点。まず、百年前の築地小劇場初期のオール男性の役の作品を全員女性の俳優で上演する。その女性俳優は、すべて、東京芸術大学で、演劇、音楽、絵画、映像、デザイン、伝統芸能などを学んだ卒業生。だが、現在俳優(演劇)専業者はいない。演出だけは文学座の中堅の生田みゆき、ここのところ良い演出作品が続いている演出のプロ。彼女も芸大大学院の卒業生。グループの名前が「理性的な変人たち」第三回の公演である。
    いまも、芸大は日本国中から芸術の抜きん出た才能のある若者が集まる学園であることは誰も否定しないだろう。その若者グループが芸術分野の垣根を越えて演劇をやる。うーむ、なんか面白そう。
    「海戦」はもう築地の初演を見た者は生きていないが、記録はある。初演はきっと、第一次大戦時の戦争ヒロイズムに彩られた戦艦の砲塔内の砲手たちの戦場リアリズム劇だったのだろう。今このテキストを選んだのは、いま戦争が世界各地で起こり、日本も無縁ではなくなった時勢に合わせたのだろう。一方、戦闘員(兵)が全員男子だった頃に書かれた本を、現代日本の女性がやる。思い切ったトンガリようだ。これが「理性的な変人たち」の企画か?
    劇場のアルネ543は舞台を中に正面と下手に80ほどの客席があるL型の劇場である。ほぼ正方形の狭い舞台を工事現場の金属骨組みで囲んで戦艦の砲塔。囲まれた中は骨組みの間から透けてみえるつくり。四角の窓らしき者がぶら下がっていて、ここから海上や敵情が見える。長い筒で砲を示したり、軍服は着ていないが白い実験室の服を着ていて、それを脱ぎ捨てると戦死したことになる。衣装・小道具を含め現代演劇の小劇場の美術だが、センス良くまとまっていて、さすが芸大の俊英たちの舞台である。
    戯曲は戦艦の砲塔の砲手五人の戦闘開始の前夜から、どうやら引き分けに終わったと見える戦闘の終わりまで。それぞれ普通の社会の思い出やら、家族やら、今の砲塔の中の友情とか、このあたりは百年前の本だから、今となればありきたりで、今回は多分大幅にテキストレジして、現代の小劇場作品に仕上げている。幕開き、戦闘前の眠れない夜にちょっと歌ったりする曲が、難しそうなメロディなのに、軽々と歌ったり、見慣れない楽器をちょっといじって聞き慣れないが良い劇伴にするところなど、ここは音楽専攻の芸大生の腕前である。演出は狭い空間に芝居とダンスと混ぜたような複雑な動きと台詞を俳優たちに要求しているが、これも難なくこなしている。台詞も、あまり表現に難しい言葉は少ないが、うまいものだ。リーダー格の砲兵を演じるなど俳優としても十分通用する。
    新しい小劇場の上演としても、ユニークなタカラズカとしても、立派にサマになっているのだが、この公演を女性だけでやった意味はよく伝わってこない。ジェンダーをテーマにしているのはうかがえるが、性差をなくせ!というのか、意識するな!というのか、もっと女性の地位を上げろ!といっているのか解らない。それは性差が最もよくわかるセックスのシーンに現われていて、セックスが話題になると、途端にみな男役として役を演じてしまう。
    芸大の俊英たちの意味も、表面的にはよく見とれるが、積極的な座組に生きていない。
    レパートリーも今までを知らないからなんとも言えないが、いかにも表面的な「海戦」を選んだのは「理性的な変人」とは思えない。もと身近にこのテーマに明確に迫れる作品。例えば、昨年生田が演出した「建築家とアッシリア皇帝」(アラバール)とか、芸術をネタにするなら三好十郎の「炎の人」とかやってみたらどうだろう。
    と、書いてもみるが、才能の氾濫を見るのは、良かれ悪しかれ楽しいもので、是非頑張ってほしいものである。


    ネタバレBOX

    会場で、テキストの築地とこの公演の訂正箇所対照表を200円で売ったいる。ちょっと甘く見て、言い訳なんか聞きたくない、徒かってこなかったが、ちょっと残念。それがあるともっと別のことが書けたかも知れない。

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    2023/07/07 14:33

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