実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2023/06/29 (木) 19:30
長年連れ添った最愛の妻サチ子が急死し悲しむ田所治とその家族たち。
これからはばあちゃんの分も精一杯生きよう、そう誓った家族の元に現れたのは…
AI化したサチ子だった!?
唖然とする家族たちにサチ子から課せられたミッションは『死んでからさせたい100の事』を成功させていくという劇で、色々とぶっ飛んでいて、ハチャメチャで、無茶振りの連続、果ては個人的な願望まで含まれた『死んでからさせたい100のこと』を最初は巻き込まれ、振り回され、迷惑がりながらも協力する田所治とその家族たちとAIサチ子との温度差やお互いの勘違いによる笑い、想い出を巡る笑い、サチ子の若い頃を坂道系と表現し、サチ子を演じる俳優は同じことによる大きなギャップ笑い、ポスターを貼る場面における、有名映画をパロったポスター、サチ子を演じる俳優の顔写真だけをグラドルの顔に貼り付けたポスターなどが出てくる小細工による笑いなど大いに笑えた。
だが、劇の後半になるに連れて、近隣の電波障害の問題でAIサチ子が危機に見舞われたり、『死んでからさせたい100のこと』の最後がサチ子との想い出の品を全部焼き捨てることと、田所治は究極の決断に迫られ、サチ子の死とも真っ向から向き合わざる負えなくなるというシビアで、手に汗握る展開になっていく。田所治やその家族が『死んでからさせたい100のこと』を通して、自分と向き合い多少の成長をしていく過程で、悩み、頓挫しながらも前に向かって進もうとする姿に、人間味を感じ、日常の延長線上のSFなのに、AIサチ子もかなり生々しすぎて、登場人物たちひとり一人に感情移入し、気が付くと感動していました。
この劇は、全体としては悪くないが、所どころ、女性は家で家事、男性は仕事、ニートは絶対ダメなど旧価値観が押し付けられているように感じたので、重苦しい部分があった。
今の時代多様性が強く言われる世の中において、必ずしも働かない人間は良くないというようなスタンスはどうかと思う。LGBTQが認められてきている世の中において、多様な価値観を認め合うのが劇においても重要なんじゃないかと感じた。だからといって、世の中がニートだらけになれば良いというわけではないが。
また、始まる前にも、劇が終わったあとにも似たようなことを演出家が言っていたのが気になった。それは「うちは、劇団員も演出家も本当のファミリーみたいに普段から仲が良いから」というようなことだったが、物を投げたり、恫喝したりして、圧倒的な威圧感で劇団員を演出家兼劇作家がまとめあげたり、劇作家が芸の肥やしになるからと劇団員にセクハラしたりといったのは違うと思うが、だからといって、稽古の休憩中にスマホをいじったり、劇団員同士で仲良くお喋りしたり、そういうことを全て良しとするのは絶対に違うと思う。劇作家兼演出家は妥協するべきじゃなく、パワハラにならない程度のぎりぎりのところで厳しく、追い込み型の指導を劇団員にすべきで、劇団員同士が仲良しこよしなのはむしろ厳しく取り締まるべきで、劇が終わるまでは、1日が稽古という感覚に劇団員ひとり一人をさせるべきだと感じた。