ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演) 公演情報 劇団チョコレートケーキ「ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    アンジーの『天井裏から愛を込めて』を彷彿とさせるタイトル。アンジーはメルダックでデビューしたのだが、先に同事務所でデビューし大ブレイクしていたブルーハーツを踏襲させられた。本来は「頑張れロック」路線ではなかっただけに非常に不運。実際は『たま』系の独自世界のアーティストだった筈。

    小学生の頃、再放送の『帰ってきたウルトラマン』で観た『怪獣使いと少年』。滅茶苦茶衝撃を受けた。灰色の工業地帯で繰り広げられる全く救いのない物語。プロレタリア文学のような目線。『帰ってきたウルトラマン』はスモッグのどんよりとしたイメージで、ディストピアの日本の姿を突き付ける(ただそれ以後観ていないので記憶による美化はあると思う)。後年、切通理作氏のデビュー作『怪獣使いと少年』を読んだ時、凄く腑に落ちた。

    巨大変身ヒーローモノが1990年に作られている世界線。(実際は『ウルトラマン80』放送終了の1981年から1996年の『ウルトラマンティガ』までは空白)。
    テーマは『差別』。誰にも正解の見えない永遠の難問。TV番組『ワンダーマン』にて、伝説の『怪獣使いと少年』に挑もうという若き脚本家の心意気。子供向けTVドラマで一体何処まで本質を描けるのだろうか?

    主人公の脚本家は伊藤白馬氏。特撮モノに初挑戦。
    大学時代の先輩で『ワンダーマン』のメイン監督は岡本篤氏。木下惠介っぽい清潔感。
    特撮監督は青木柳葉魚氏。
    助監督は清水緑さん。
    主演のワンダーマン役は浅井伸治氏。ペナルティのワッキーを思わせる役作り。
    大物ゲスト枠は橋本マナミさん。気負い過ぎて少し固かった。
    宇宙人(コクト星人?)役の足立英(すぐる)氏の振り幅が素晴らしい。
    MVPは東特プロのプロデューサーの林竜三氏とTV局から出向しているプロデューサーの緒方晋(すすむ)氏。ここのリアリティがドラマの厚み。社会で生活している人間の重みがあってこそ、ただの絵空事のファンタジーにはしない。
    是非、観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    ネタ元
    ①ウルトラマン『故郷は地球』
    事故により遠い惑星で見捨てられた宇宙飛行士ジャミラは棲星怪獣ジャミラと变化、復讐の一念で地球に舞い戻る。
    ②ウルトラセブン『超兵器R1号』
    惑星攻撃用超兵器R1号を無生物のギエロン星にて実験。成功に終わり惑星は粉々に。しかし実はそこに居住していたギエロン星獣は復讐の為、地球を襲う。
    ③ウルトラセブン『ノンマルトの使者』
    古代、人類より先に地球で繁栄していた先住民ノンマルトは人類の侵略に地上を追われ、海底都市を築いて静かに暮らしてきた。海底開発が進む中、抵抗してきた海底都市を地球人は全滅させる。
    ④帰ってきたウルトラマン『怪獣使いと少年』
    川崎の工業地帯、河川敷の廃工場で暮らす老人(メイツ星人)とアイヌの少年。かつて地球の気象調査にやって来たメイツ星人だったが、汚染された地球の環境に耐え切れず重病を患っている。強大な念動力を持ち、公害で畸形化した怪物ムルチを地底に封印している。気味の悪い余所者がのさばっていることに不快感を感じた地元民は暴力で排除に出る。群衆にリンチされる少年を庇ったメイツ星人は惨殺される。それと共に封印の解けた怪物ムルチが暴れ出す。人々は泣き喚いてウルトラマンに助けを求めた。
    モデルになった史実は関東大震災後に起きた朝鮮人大虐殺。判明しているだけで、2613名の朝鮮人が虐殺されている。

    〈今作の展開〉
    暴徒と化した群衆は宇宙人(足立英氏)を襲撃する。心優しいパン屋の店員、橋本マナミさんは誤解を解こうと必死に止めに入る。だがどうにもならない。橋本マナミさんは惨殺されるも、死の間際に想いを伝える。「(他者を)怖がらないで。私も怖がらないから。」
    差別の本質は恐怖であることを告げる。恐怖を乗り越えた先に解り合える未来が生まれることを。
    (舞台上をセピア色一色に染めた照明が効果的)。

    この後の展開をどうするかで二転三転する。

    〈最終的に作品化されたもの〉
    一人自らの寿命が尽きるまでただただ生き続けた宇宙人は死の訪れと共に彼女との再会を果たす。

    もし自分が小学生でこのTV放送を観ていたとしたら腑に落ちない気がする。人間が衝撃を受けるのは顔を背けたくなる程のリアル。綺麗な作り話ではない。『デビルマン』の牧村美樹邸の魔女狩り、『カムイ伝』の正助への残酷なる私刑、『ブッダ』のタッタの蜂起。理屈や綺麗事では納得出来ない人間の動物としての本能。『デビルマン』では怒りに狂った不動明が人間達を皆殺しにした。「俺は悪魔の体を手に入れたが人間の心を失わなかった。お前達は人間の体を持ちながら悪魔になったんだぞ!これが俺が命懸けで守ろうとした人間の正体か!?」
    実はここが重要な点。人間の“何”を守ろうとしているのか?

    監督が同性愛者であることはすぐに気が付いた。差別を受けることに敏感な弱者である少数派がこの手の話題に大声を出せない事。

    何が正解なのか、未だに解らない。多分、正解は時間の経過。時間が経って何もかもが消えて無くなるだろう。どんな結末を自分は求めていたのか?

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    2023/07/01 00:11

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