いつか道化となってみんなを笑わせます 公演情報 劇団やりたかった「いつか道化となってみんなを笑わせます」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2023/06/28 (水) 19:00

    価格4,000円

    少年フリックの冒険譚。

    ザムザの木の空間の中には簡素なテーブルとイスだけがポツンと。鍛冶場の音とこわばった表情のフリックが印象的な緊張感ある導入。食器やパンを配る姉のポリーはフリックのところにだけは投げやりに、パンも少量だけ引きちぎって投げて寄越すような仕草。ポリーの夫のケリーは心優しい性格で、些細なきっかけで癇癪を起すポリーをなだめつつ、フリックにはパンを分けてあげたりもする。後に説明があるのだが、両親がいない中でポリーは一日も休むことなく働き、フリックを養ってきて消耗しきっているのだ。また、せっかく手に入れたケリーとの生活の為にフリックを追い出したいという願望もある。単に性格が悪いだとか狂人というのとは違う。

    フリックも辛くないわけがなく、常に表情は引きつり、言葉もたどたどしい。外では小汚いノロマ呼ばわりも受けているようだ。先天的な障害ではなく、この家庭環境による抑圧の影響が大きいのかなと思う。
    また、空想癖がある。イマジナリーな存在にロンリネスと名前を付け、語り掛けている。現実逃避の産物でもあるのだろう。そしてこの空想の向こうには「確かなもの」がある。後述。

    そんなある日、フリックはケリーから横笛を贈られる。隠し事を嫌うポリーに咎められ、ケリーからも正直に言うよう促されるが、フリックは笛を隠し通してしまう。余程笛が嬉しかったのだろう。ずっとそのままなら隠し事では無いから許すとポリー。フリックが笛を隠した位置は股間。巨大なイチモツが屹立した状態にしか見えない。フリックはその姿のまま家を出る。

    こうして冒険が始まるのだが、「ぷぷぷ」と紹介されている作品、毎回開演が押す(来るのがギリギリな人が多過ぎる)ような弛緩した流れ、フレンドリーな前説からの空気が文字通り一転して、会場全体が緊張感を帯びたのはお見事だった。

    最初に訪れたのは孤児院。関西弁の男の子がリーダーとして盗賊団を名乗っている(本当に盗みを働いているのかどうかは描写がない)。設定がやたら細かく、どこか中二病的。盗賊団加入に際して、秘密を漏らしてしまった時の代償、通常であれば両親の命という脅しだが、両親がいないフリックはケリーを殺していいと提案、懇願する。こんな形で義兄への愛情、感謝を吐露する姿が切ない。
    こうしてほうぼうを旅して沢山の人物と出会い、教訓を得ながらフリックは成長していく。この場面ならリーダーの男の子の「自分の舟は自分で漕ぐしかない」が印象的だ。
    孤児院に中年の三銃士が登場する。湧き上がる孤児の子供たち。子供たちに下ネタを炸裂させたりと感心する大人像でもないのだが、笛を屹立させたフリックをダルタニアンと呼んで仲間に加え、会話の中で教訓を与えてくれる。なお、この時点でフリックの言葉遣いが滑らかになっていて、良い方向に向かっている感じが嬉しくなる。そしてやや唐突な三銃士との別れ。

    舞台は変わって近世ヨーロッパのような街。街の人々とストリートパフォーマー。パフォーマーといっても現代の夢追い人のような立ち位置ではなく、チップを貰って生業としている人たち。3人の技はドラム、ジャグリング(玉投げ)、ブレイクダンスなのだが、これが賑やかで楽しく、エンターテイメントとして充実。世界が回っている。そんな彼らに刺激されるフリック。だが、口上は上手くなったが笛はまだロクに吹けない。

    次に訪れたのは日本の江戸時代のような街。この世に飽き飽きしたお殿様は面白い人物を集めては飽きて投獄してしまう。牢屋にいるのは何故か昔話の面々で、花咲か爺さん、浦島太郎、雪女、三年寝太郎、そして一寸法師だ。一寸法師から笛の指導という名目でこき使われながら、フリックの笛が着々と上達していく。道化らしいパフォーマンスも体得しつつ。
    一寸法師からはもう教えることはない、もっと上手くなりたいならと名人の西の魔女の元を訪れるよう促される。この時の「上手くなりたいのか」に対して「当たり前だよ!」の力強い返し。成長が見て取れて嬉しい。
    また、この場面で見えない女性から自分の名前を呼ばれている感覚を覚えるフリック。単なる幻聴では無い不思議な感覚。同じ村にいても出会えない者もいれば、世界の両端にいても出会える者もいると一寸法師。

    6人の西の魔女。笛吹きの名人という触れ込みだったが、どうやらアダルトなお店のようで、笛とは男性の…事のようだ。完全にズレたアドバイスなのだが、それでもフリックの笛は格段に上達。なお、この指導の影響か色気らしきものも帯びたようだ。
    ヨーロッパの街に戻り、笛を披露すると人々の人気者になる。そこでパフォーマーの面々に仲間になりたいと申し出るも拒絶される。彼らも商売敵に成り得る存在には敏感なのだ。三銃士もそうなのだが、大人が決して甘やかしてはくれない辺りが本作の成長物語としてのリアリティ。
    ここにきて迷いを感じるフリック。

    場面は変わり、少女と少年。激高して家を出ると吠えているのは少女はエスメラルダ。自分は公爵(侯爵?)の血筋の特別な人間であると。更には遠くの果てに自分を探している男の子がいて、しかも自分の名前を間違っているから正しに行くのだと。同じパーティーに出ていても出会ない者もいれば、世界の両端にいても出会える者もいるのだと!
    太陽のような女の子というより太陽のフレアのような女の子。途轍もない熱量、勢い、突飛な想像力に幼馴染のロドリゴもタジタジである。後に人を寄せ付けない生き方だったと語っているのだが、この激情ぶりに付いてこれる人がいなかったのだろう。フリックとは違う意味で居場所を求めていた少女。なんという運命!
    後半になってからの登場で既に人物は出揃い、場も温まりきっていたのだが、登場するなり叫び、走り、一瞬で追いつくどころか更に加速、加熱させて行った。役者(有田好さん)としても途轍もない。

    フリックを探して旅をするエスメラルダ。孤児院では関西弁のリーダーと張り合い、王侯貴族オタクの孤児にとまどいつつ、三銃士ならぬチン重視に襲われそうになりながらも西の魔女に助けられたり(三銃士と西の魔女で大人の時間に)、江戸っ子には投げキッスを振舞ったりの珍道中。
    一方その頃、迷いの中のフリックだったが仲間たちの声に後押しされ、エスメラルダを探して走り始める。

    お殿様に絡まれ、全力のエピソードトークもウケずに危機に陥るエスメラルダ。そこに淡々と走りながら到着するフリック。チン重視の場面で遠くからの笛の音と同時に現れてたら最高にカッコよかったのにあえての展開。遠く離れた距離にいながら空想を通じて繋がりあっていた二人の出会い。感動したお殿様に許され、この場の窮地は脱する。

    苦しい生活、働きづめの日々で笑顔を失ったポリーとケリーを救おうと決意する二人。ボーイミーツガールの冒険譚、成長物語として最後の仕上げだ。またにその頃、ポリーとケリーは黒い影ロンリネスに襲われていた。世界中の悪意、負の感情の連鎖で増幅するロンリネス。対抗する為にこれまでの冒険で出会った仲間たちを次々に呼び寄せるフリック。強力なロンリネスピラミッド(組み体操)により悪に寝返る面々も。危機の中、お殿様はそんな珍奇な光景に笑いの声「面白い!」を上げる。認められたい欲求こそが存在の根源であり、弱点であったロンリネス。フリックの心の中に戻り、事態は無事に収束。これぞエンターテイメント!

    40人の出演者が総出で、頭と身体をブン回しながらのエンディング曲。劇中のメッセージ、歌詞の内容、発散されまくるエネルギーに刺激され、笑顔でいながら涙が溢れた。

    「エネルギーに満ち溢れた」「活気を貰った」という舞台の感想はあるあるなのだが、本作はまさにそう言うしかないし、その具合が飛び抜けていた。
    以前に他の作品を観た時には癖のある作風の団体と受け止めていたのだが、本作ではその癖とファンタジー的要素とテーマの前向きさ、人数の多さとエネルギーが良い塩梅で融合。
    登場人物も癖があったり何か欠けていたり、でも人間臭くて親しみが持てる。役者陣(当パンはなく、HP等にも記載が無いので役と一致させられないのがネック)も文字通りの熱演。個別の名前が無い(出てこない)役も多いのだが、しっかり区別、思い出せるぐらいに個性が整理されているし、声のマッチングも良かった。ケリーがポリーをなだめる際の声やお殿様の殿様らしい笑い方が良き。

    そして改めて、エスメラルダ役の有田好さん。ここだけはお名前を知りたくてスタッフさんに訊きました。前述の通りで後半からの登場なのに、一気に追いつき、更に加速・加熱させた爆発力はまさに圧巻だった。セリフも膨大で常に絶叫気味で、でも全く噛まない。声も潰れない。声の通りもよく、声質もプリっと可愛らしい。「もう!」などは声フェチとして痺れた。お顔自体もとてもとても可愛らしいのだが、これでもかと表情も動く動く。出ハケも殆どが全力疾走。
    作品を象徴するセリフ「この世は喜びで満ち溢れている」「楽しい事があり過ぎて嫌な事に目を向ける暇なんてない」を担うに相応しい存在感に生命力。
    見とれてました。途轍もない役者さんでした。

    素晴らしい作品、出会いに感謝。

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    2023/06/29 17:29

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