ある馬の物語 公演情報 世田谷パブリックシアター「ある馬の物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    第一幕75分休憩20分第二幕50分。

    最前列はF列。
    ステージを大きく使っていて俳優は通路にもどんどん現れる。建築現場の作業員達がおもむろにトルストイの古典を始めるのは『ジーザス・クライスト・スーパースター』、その後の展開は馬版『キャッツ』を思わせる。
    サックス4人組が奥でジャズり続ける。ソプラノ小森慶子さん、アルト、ハラナツコさん、テナー村上大輔氏、バリトン上原弘子さん。

    小宮孝泰氏がこんなに歌が上手いとは。
    小西遼生氏はリアル「紫のバラの人」、若き川崎麻世の風格。黒がよく似合う。
    元宝塚雪組トップスター、音月桂さんは流石のヒロイン。細かいフランス語の演技で会場を笑わせる。
    『さらば箱舟』で主演だった小林風花さんはターン連発、ぱるるっぽかった。

    長く伸ばした髪を盛り上げて馬のたてがみを表現。顔のペイントで模様を表現。ハーネスとワイヤーを素早く装着してのフライング・ワイヤー・アクションを多用。あっと驚く程のスピード。

    主演の成河(ソンハ)氏の凄まじさ。高額チケットを購入する価値がある役者。観れば観る程に評価が上がる。プロレスラーのような運動量。野生動物か。余りに凄すぎて言葉が出て来ない。彼の代役をやれと言われたら、殆どの俳優は震え上がると思う。化け物。

    老いた馬から若い馬へと時は遡る。囲んだ演者達が髪型を整え、服を脱がすと成河氏は精悍な若馬に。纏っている空気がガラリと変わる。

    ある老いぼれた馬、ホルストメール(成河氏)が子供時代に仲が良かった牝馬(音月桂さん)と再会して、半生を語り出す。血統書付きの名馬として生まれたが、まだら模様(ブチ)だった為に嫌われた。ある時、公爵(別所哲也氏)が馬を買いに来て、一目で彼の素質を見抜く。

    岡田真澄ばりの貴族、別所哲也氏の登場からどーんと面白くなる。それまではちょっと停滞気味。そこからラストまでは一直線。第一部のラストなんて鮮烈。
    成河氏の馬を見逃してはならない。

    ネタバレBOX

    クレーンの重心を真ん中にしてシーソー状に設置。両端に成河氏と御者(小柳友〈ゆう〉氏)が乗る。疾走する橇をダイナミックに上下するクレーンで表現。相当危険なんだろう、本物の特機のスタッフが押さえている。何処までも何処までも走り続けるホルストメール。御者は興奮し、伯爵は上機嫌。町の人達も上下回転し続ける重機を慌ててすり抜ける。素晴らしい演出、第一部の終わり。

    始めの方は作品の意図が掴めずに、余り面白くなかった。もっと時代背景など無視してニューオーリンズ・ジャズを陽気にかき鳴らして欲しい気分。(暗い曲調が多かった)。ホルストメールが人間を風刺的に観察し、その異常なる所有欲を分析する。「馬から見た人間社会」がテーマかと思ったらそれも違った。伯爵に所有されていることに誇りと生きる喜びを感じていく。だが伯爵もホルストメールも等しく老いさらばえていく。全ての生物に共通する「生老病死」、その無常感。それだからこそ、ホルストメールが人生最高の日々だったと述懐する伯爵との二年間が眩しく煌めき胸に焼き付く。誰の心の中にも封印されている“あの頃”を。

    スキャンダルの飛び火でとばっちりを受ける不運もあったが日本演劇界を代表する俳優。

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    2023/06/26 13:06

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