満足度★★★★★
幸せのありか
THEATRE MOMENTSは客席との関係が独特で、一般的な演じる側⇔観る側という二項関係に留まらず、観る側が時に作り手にもなり、演じ手と一体となって協同的かつ主体的に、心の動く瞬間(MOMENT)を創りあげていく。
そもそもライブとはそういうものだと思われるかもしれないが、THEATRE MOMENTSの舞台にはそのための仕掛けが意図的に、かつふんだんに用意されている。
そうして生み出された瞬間(MOMENTS)はただの一度として同じものはなく、その日その場に居合わせた人達だけのものである。
そういう意味で、非常に演劇的な舞台だと思う。
今回の『マクベス』は、その為の仕掛けが本当に秀逸だった。特に客席からのアンケートに基づいた即興から始まるオープニングへの流れに、のっけから前のめりに舞台に引き込まれた。
そうして新聞紙、赤い糸、てるてる坊主など作り手の想像力が生み出したキーワードが観る者一人一人の中で万華鏡のように反射してその人だけの模様を描き出し、観る者は芝居を透してその自らの万華鏡の模様を覗き込む。そんな感覚。
また、それを表現する役者の熱演も忘れてはならない。キャストチェンジをするそれぞれのマクベス、マクベス夫人には役者自身の個性が反映されていたが、その違いが心の多面性とリンクして、より世界が拡がって見えたと思う。
原作の『マクベス』では思い至らなかったけれど、手を血に染めて破滅していくこの夫婦もやはり最初は祝福から始まったのだなぁ、と改めて気付かされるとともに、相手を「必ず幸せに」しようとするばかりに逆に不安に追い立てられ落ちていく様に、胸が締め付けられた。
自分の欲や幸せのためというより、相手を幸せにしたいという思いから起こした行動が結果として破滅を招いてしまうところに、このMOMENTS版『マクベス』の悲劇性がある気がした。
「幸せのありか」について深く考えさせられる、本当に刺激的な舞台だった。
2010/06/07 15:01
「観てきた」への書き込み、ありがとうございます。
MOMENTS主宰、佐川大輔です。
私達は「観終わった観客のリアクションがあって、初めて作品は成立する」と考えています。
このような感想は嬉しい嬉しい宝物です。
私達の劇団の特色をこれだけ的確に言葉にしてもらってとても嬉しいです。
「演劇でしか出来ないこと」にこだわって作っている私達の理念が伝わっていると実感し、感無量です。
ただ、僕はいつも思っているのですが、うちの作品は「見る人の想像力に頼って」作っています。
つまり、分かりやすく言えば、「作品は皆様の想像力を刺激するお手伝いをしてるに過ぎない」のであって、「最も素晴らしいマクベス」はきっとお客様の頭の中に出来ているのだと思います。
私達の「マクベスーシアワセのレシピー」から、「素晴らしいマクベス」を創造し、創造してくださったお客様に感謝します。
「マクベス」は悲劇と言われています。
「悲劇」というと、観客は「これは悲劇だから」というフィルターで見て、演じる側も「これは悲劇だから」というフィルターで演技をする・・・。
どこかそういうお約束のようなものがあって、実は僕はそれに少し懐疑的なのです。
僕が思うに、良い悲劇と言うのは
「もしここでこういう風にしなければ、幸せだったかもしれないのに・・・」
という悲劇とは別のベクトル、つまり「幸福への希求、明るい展望」が強くあればあるほど悲劇的なのではないでしょうか?ロミオとジュリエットなどがまさにそうです。
(あれはともすると「コメディ」にまで近くなっている気がしますが。)
「シアワセのありか」を常に探しているという、誰しもが持つ普遍的な部分を、「マクベス」の悲劇に繋げることが上手くできたようで、本当に嬉しいです。
このような励ましを糧に、頑張っていきます。
宜しければ、これからも応援よろしくお願いいたします。
ご来場ありがとうございました。