実演鑑賞
満足度★★★★
木馬と言えばトロイ戦争。本作でも近代戦争に「木」の飛行機を用いた愚かしい史実が題材となっている。客演小野武彦を現在の老人とし、時代を遡った回想場面にそのまま登場して当時を演じるというシンプルな趣向が効果的であったが、震洋と命名されたその片道切符の"航空機"に乗るべく彼らが配置された山陰地方の漁師町では、機密情報はとうに漏れていて彼らが「特攻」で散る運命であり、町を挙げて迎え入れる体制。靖国の妻となった戦意十分な女性(板垣)や、小野氏とささやかな交流を持つ女子(大手)、夫が出征中の家のために婦人会長に名乗り出させられ、覚束ない働きぶりであった女性(石村)が彼らとの交流や空襲の激化の中で逞しくなっていく、等の心温まるエピソードの合間に、軍の上官らが役得をほしいままにする様や、出動命令が出ては村人と別れの挨拶をし、出動時刻までの数時間(時には半日)を緊張に体を固くして待機したかと思えば「敵機来襲の情報が誤り」として解除される、という事が何度も繰り返されるなど、日本軍の組織力を皮肉る視点も挿入している。彼らを歴史の英雄に祭り上げる事を許さない「愚かな組織の犠牲者」という視点は、ラストに結晶する。
終戦直後に筑豊で起きた武器弾薬庫爆発事故を描いた作品(前々作あたり)に通じる。史実を「受け止めるしかない事実」と飲み込む事を観客に強いる、甘味でない芝居。