家の内臓【作・演出 前田司郎】 公演情報 アル☆カンパニー「家の内臓【作・演出 前田司郎】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    笑いに品があり、心地よい作品
    前回の「罪」にも温泉宿が出てきたのでは?と思ったが、「罪」を見逃したので、これはぜひ観たかった。
    前田司郎氏がシナリオを書き、久米明と渡辺美佐子が老夫婦を演じたNHKドラマ「お買い物」は、五反田団のイメージとはまた違った感じでとても良かったので、家族の物語に期待して観に行きました。舞台なので、もう少し深刻な内容かと思ったけれど、想像以上にライトな仕上がりで安心しました。前田司郎曰く「舞台は日常の些細な事を忘れさせてくれる装置だったのかも知れません。でも、使い方によっては日常の些細なことを思い出させてくれる装置にもなると思うのです」。
    まさにその通り。驚愕するようなことは何も起こらないけれど、大人がニヤリとできる大変心地よい作品でした。1時間15分と上演時間も程よく、彼の言葉を借りると「本当にどうでも良い話をずっとしている物語」をもう少し観ていたいような気持ちになりました。腹八分目ってところがいいのかもしれません。この節度は貴重です。

    ネタバレBOX

    炬燵が中央にある群馬の温泉宿の一室。内装関係の会社の同僚である男女5人が雑魚寝している。5人部屋だと宿泊料金が割安だったらしく、ほかの同僚も誘ったが来なかったという。同僚と言っても、ヌマタ(平田満)と離婚した妻ヤマザキトミコ(井上加奈子)と娘のエリコ(橋本和加子)、ほかに独身のタシロ(西園泰博)とキザキ(小林美江)が来ている。俗に言うアットホームな雰囲気のこじんまりとした会社らしい。私は温泉のある観光地に住んだ経験があるので、ヌマタの話し振りを聴いていると、温泉旅行に来る中小企業の中間管理職というのは車中でもだいたいこんな感じだなぁと思った。やたら、若い部下との距離を縮めようとして、どうでもよいことを饒舌に語りかけ、若い部下たちは調子を合わせながらも、内心辟易しているのが見てとれて、傍で観察しているとなんともほほえましい。上司というのは、こういうとき、他人にさえ職場の人間関係がわかってしまうほど、いらぬことをしゃべりたてるものらしい。社員旅行独特の解放感がそうさせるのかもしれない。
    また、アットホームな雰囲気の会社での勤務経験もあるが、何でも筒抜けで上司が家族のようにプライバシーに介入してくるのは疎ましいものだ(笑)。
    この芝居でも「忍者の里」の「忍者」の存在をめぐってヌマタとタシロが堂々めぐりの会話を続けるかと思えば、キザキに彼氏がいるのかとしつこく訊ねるヌマタをタシロがセクハラだと諌めたり、ヌマタが比喩に使った「桶狭間」の説明をめぐって、ヌマタがタシロの揚げ足をとったり、他愛ない会話が続いていくが聞いていて面白いので飽きない。劇の冒頭で「顔を洗ってくる」と席をはずしてしまうトミコと風邪気味でずっと寝ているエリコ。ヌマタ、タシロ、キザキが風呂に行っている間にトミコが戻ってきて、起きてきたエリコとの2人芝居になる。
    いまも会社にいるイシワタリという人物(劇には登場しない)とヌマタが昔トミコを取り合ったとか、彼氏と別れたばかりのキザキは実はタシロを好きらしいという話が出る。そして、ヌマタは近く、会社を自主退職することになっているとトミコが話し、エリコは「自分が入社したせい?」と気にする。退社理由は「からくり屋敷のような家を作りたいから」らしい(笑)。この元夫婦はエリコの幼いころも家の内装の仕様をめぐって意見が対立したそうだ(笑)。
    ヌマタは、もうすぐ別れることになる同僚たちとのスキンシップをはかりたくて旅行に誘ったらしい。だが、退職を打ち明けられないのだ。タシロやキザキをなかなか寝かそうとしなかったのも、少しでも長く話をしていたかったらしいことがわかってくる。トミコは母子家庭に育ったタシロがヌマタを慕っているとエリコに言う。ヌマタらが「設備を清掃中で風呂に入れなかった」と戻ってきて、本式に布団を敷く段階になり、ヌマタの布団だけが離れていることに不服を唱え、少しずつ重ねて間を詰め、5組並べて敷くことで決着する。「少しずつ重ねて重ねてね」と嬉しそうにヌマタが言うところで終わる。この台詞がすごく生きている。
    出演者は全員とても良かった。平田、井上のご両人は言うに及ばずだが、西園と平田の会話が特に面白い。小林は「間」がよく、最後にゴロンと転がりながら寝るのが笑えた。橋本は目を覚ました直後の演技の「間」が昨今の小劇場女優にありがちな不自然さを残すが、母娘の会話の場面はとてもよかった。
    「夫婦は他人」という感じで突き放してヌマタを見ているトミコ、「トミコはね、暇さえあれば風呂に入ってるような女なんだよ」と真顔でタシロに冗談を言うヌマタ。夫婦のこういう描写が面白い。「土産に持って帰るからダメ」とタシロが頑なに開封を拒んだ味噌味のせんべいを、トミコが知らずに開けて食べてしまい、部屋に戻ってきたタシロがギョッとして袋を見つめる姿が可笑しい。先日、やはり温泉宿を舞台にしたコメディを観たので、あの空虚なわざとらしい笑いとどうしても比べてしまう。こちらは何と自然で気分がよい笑いだろう。
    この作品の会話を聞いていると、昔の森繁久弥の映画を思い出した。森繁の出演映画は喜劇でなくシリアスなものでも、どこか今回の芝居と共通する可笑しみがあった。本作もコメディではないと思うが、前田司郎氏の笑いのセンスが感じられて嬉しかった。
    この日も開演前から大声で連れではない隣の客に話しかけ、本番中も一人けたたましく笑う女性客がいて、最後には「ブラボー!」とおおはしゃぎ。会場が狭いので悪目立ちする。やれやれ、こういう人こそ、先日のコメディの会場にいてほしかったですよ。うまくいかないものですね(笑)。

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    2010/05/26 20:52

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  • KAEさま

    ずっとログインがサーバーエラーでできなかったのでお返事が遅れ、申し訳ありません。

    >この間、お隣の女性に一方的に話し掛けられているところを目撃したので、いつか、ご臨席になったら、どうしようかと、戦々恐々としています。

    一方的に話し掛けるのが常のようですね。
    このときもそうでした。自分だったら何て返すだろう、と考えて見てました(笑)。
    「はぁ」とか「そうですね」と相槌打ってるしかないのかも(笑)。

    2010/05/31 06:21

    きゃる様

    御推察の通り。私のプロフィール欄に以前登場されたのは、その方です。(笑)
    この間、お隣の女性に一方的に話し掛けられているところを目撃したので、いつか、ご臨席になったら、どうしようかと、戦々恐々としています。

    平田満さんは、つかこうへい事務所時代から、大好きな役者さんで、できる限り、平田さんご出演の舞台は見逃すまいと思っているのですが、今回はどうしても時間が取れず、残念でした。
    「アート」という作品で、反目する友達の仲裁をしようと躍起になる人の良い男が、思いの丈を朗々と語る長台詞の素晴らしさは、今でも鮮明に目に耳に焼きついています。
    「罪」も、本当に、平田さんあっての名作でした。
    きゃるさんが、見逃されたのは、私もとても残念でなりません。

    2010/05/28 02:23

    KAEさま


    >あれだけ、舞台をご覧になっているのですから、演劇ファンでいらっしゃるのは間違いないとは思いますが、やはりTPOは弁えて頂けたらと、いつも気になってしまいます。

    そうですね。特に一般のかたと勘どころが違うとなおさらですね。知らないと驚いてしまいます。
    KAEさまが以前のプロフィールで「ブラボー!おばさんとまちがえられたらどうしよう」と書いておられたのはこのかたのことだったのでしょうか?最初、「ブラボー!おばさん」っていう意味がわからなかったのですが(笑)。私は年間観劇数も少なく、最近はお能と一部の小劇場が中心で、あまり大劇場や商業演劇には行かないので、遭遇しなかったのかもしれません。

    >きゃるさんは、この芝居、好感を持たれたご様子ですね。
    行けば良かったかしら?平田さんの大ファンとしては、行くべきでしたね、きっと。

    この役が平田さんでなかったら、こういう雰囲気を出すのはきっと難しかったと思います。下手な人なら、いやらしく見えてしまうかと。平田さんというと、映像の仕事では田中絹代の付き人だった男性、新吉さんという名だったかしら、あの役を映画の吉永小百合と、TVの秋吉久美子のときと2度勤められたと思うのですが、ともすると埋没してしまうような役を印象的に演じられ、平田さんでないとできないと思わせることができる稀有な俳優さんですね。
    ちなみに、豊橋市内では「豊橋市出身俳優」というステッカーが市内交通機関の全車内に貼られており、キャラクターが長く川合伸旺さん(当時、市川猿之助さんの妹の靖子さんと結婚してましたが)だったのが、ある時期から平田満さんに代わりました。

    2010/05/27 09:07

    きゃるさんは、初めて遭遇なさったのですか?
    私なんて、数えてはいませんが、50回は下らないと思います。ミュージカルから、伊東四郎まで、結構いろいろな芝居をご覧になるようです。どこかの誰かと同じく。(笑)
    その方のリアクションで一番驚いたのが、「歌わせたい男達」の時。劇中、終盤の感動シーンで、戸田恵子さんが、自分に辛い協力をしてくれた同僚教師のために、一人そっとシャンソンを歌うシーン、最後にその芝居のキーワードの眼鏡にスポットが当たり、静かに幕というその間際に、戸田さんが歌い終わった途端、「ブラボー!!」と絶叫されたのです。コンサートでもカーテンコールでもない、劇中の大事な大事なシーンで…。その時は、戸田さんのファンの方かとばかり思っていましたから、jこれでは、贔屓の引き倒しだわと、戸田さんをお気の毒に思ったものです。
    その後、どうやら、そういう方ではないことに気付きましたが…。
    時々、新米の役者さんだと、あらぬ場面での高笑いに、舞台上で、びっくりされている様子が見え、お気の毒な気がしています。
    あれだけ、舞台をご覧になっているのですから、演劇ファンでいらっしゃるのは間違いないとは思いますが、やはりTPOは弁えて頂けたらと、いつも気になってしまいます。

    関係ない話題で、長々失礼しました。きゃるさんは、この芝居、好感を持たれたご様子ですね。
    行けば良かったかしら?平田さんの大ファンとしては、行くべきでしたね、きっと。

    2010/05/27 04:16

    KAEさま

    ありがとうございます。興味深くコメント読ませていただきました。
    私、このかたには初めて遭遇しました。先日、別の人でこまばアゴラでこういう大げさな笑い方の人がいたのですが。
    でも、シリスな場面でも笑うってヘンですね。そういえば、みんなが笑ってない場面で一人キャアキャア笑ってたんですよ。みんなが笑ってるときはなぜか静かでしたね。クスリとも笑わない。あんなによく笑うのにおかしいなーと思ったんですよ。ご自分の感性で笑ってるのか、わざと笑ってるのか、よくわからないですね。
    シーンとしたところでは笑ってくれるなら、なおさら先日来てほしかったですね(笑)。あのお芝居、みなさんが高得点で大爆笑だったとのこと。でも、私の観た回は本当にシーンとしてたんですよ。
    私の感性もブラボーおばさん並みにヘンなのかもしれない。不安になってきました(笑)。

    >それでいて、皆が拍手喝采するような舞台では、お得意の「ブラボー!」も叫ばず、カーテンコールの前にさっさと退場されたりなさいます。

    それってとても不思議ですね。「ブラボー!」と叫んだ直後、怒った様に憮然とした表情で出ていかれました。叫ぶほど感動したなら、それなりの表情をするはずですが。

    2010/05/26 21:54

    きゃる様
    そのブラボーおばさんは、私も何度も遭遇しています。(笑)
    私の感性では、ここで笑えるってあり得ないというところで、実に器用にお笑いになるので、ある意味、スゴイ芸!と感心することもあるのですが、すごーく、シリアスなシーンで、突然お笑いになったり、大事なシーンをぶち壊したりされることも多々あるので、あの方がいらしている時に、収録なんかがあったらどうするんだろうと、いつも本気で心配しています。
    それでいて、皆が拍手喝采するような舞台では、お得意の「ブラボー!」も叫ばず、カーテンコールの前にさっさと退場されたりなさいます。本当に、いつも驚愕させられる、不思議な方ですよね。

    2010/05/26 21:19

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