実演鑑賞
満足度★★★★★
懐かしい空間である。ここは上海バンスキングの初演の地として、今や歴史的存在でもあるが、自由劇場がコクーンへ大出世した後は、忘れ去られ捨て去られていたらしい。相変わらずの階上のガラス屋は健在だ。上海バンスキングはここでは見なかったが「赤目」は見た(記憶がある)と串田説(すべては個人の記憶しか残らない)に倣って言って見たくなる。
前半四十分・前芝居「阿呆劇・注文の多い地下室」は、この空間発見の時を素材にした、演劇発見の青春感懐。後半は芝居(メフィストレレス)に捕まってしまった自ら(ファウスト)の人生を回顧する一人語りである。こう言う作品は得てして自慢話になってしまって嫌みになるところだが、地下室に寝転がると天井に星空が見えたとか、悪魔と人間を分かつものは何だ?とか、嫌みになりそうなところが、良い気分で見られてしまう。こちらも、記憶の罠にはまっているのだが、そこを超えて楽しめるのが演劇である。
小劇場ブームのただ中で一風変わった劇団を率いて五十年近く、ほとんど路線も変えずに波乱の昭和演劇史に鮮やかな一ページを加えてきた演劇人の芯の強さに敬服する。それを、都会風な照れと、自負が支えている。テキストを売っていたので読んでみると、そこはよく作品に反映している。先頃横須賀まで行ってみた白鸚とは真逆の道で人生を演劇に捧げた演劇人の舞台であった。(確か二人は同年?)
五十人ほどの観客で満席。2時間20分。