実演鑑賞
満足度★★★★★
#名越志保 #小谷俊輔
#下池沙知 #鬼頭典子
#赤司まり子 #つかもと景子
#廣田高志 #金沢映実
#高橋ひろし #若松泰弘
#鈴木弘秋 #太田しづか
#木津誠之 #頼経明子
#室園元(敬称略)
初日。この感覚はいつ以来だろう。完全に作品の世界に取り込まれた。ヒリヒリとした空気を体感し、集中が研ぎ澄まされて、心も脳も前のめりになっていることを感じていた。
そこにあるのはアメリカ南部に蔓延った差別と、その暴力性。肉体への暴力は勿論のこと、精神を打ちのめす思想による暴力も存在する。それは人生を踏みにじる。人は誰かを上から見下し、弱者の存在を感じていないと安心できない生き物なのだろうか。ネチネチと人に絡み、尊厳を金と暴力で奪う。毎日死にたくなりながら、一体何を守って生きていけばいいのだろうか。
何が善で何が悪なのか。善に見えるものと悪に見えるものの本質は、本当に見えている通りなのか。
今作は作者による、愚かな世界愚かな社会愚かな人間へのアンチテーゼ。他者と違う装いで立ち、疎まれ蔑まれ村八分にされる者の叫び、そしてその者の瞳に宿る怒りの中にこそ、追求すべき真実がある。大好きな下池沙知さんが、孤高のジャンヌダルクのように、美しき精神を持ちながら虚勢と不安の中で溺れそうな汚れたキャロルを見事に立ち上げた。たくさんの人に彼女を観てほしい。
名越志保さんの声の美しさは宝石のようだった。ウットリと聞き惚れた。
鬼頭典子さん演じる保安官夫人も印象的だった。彼女が抱えた、人生を生きるというある種の信仰が、希望と絶望を内包しているように思えた。
研究生の時から抜群の存在感を放った小谷俊輔さんも、やっぱり良かった。
演劇の素晴らしさを実感する公演がここにある。たくさんの人が、この素晴らしさを共有してくれることを願ってやまない。